「行動経済学」について理解を深めることは、様々なリスクから身を守るためにも、うまく目的を達成するためにも、非常に重要だ。『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』を推薦する、東京大学大学院経済学研究科教授の阿部誠氏は、著書『大学4年間の行動経済学が10時間でざっと学べる』などで最先端の知見をわかりやすく紹介している。私たちは仕事や日常生活に行動経済学をどう活かせばよいのだろうか? 阿部教授にお話しを伺った。

【東大教授が教える】「良かれと思って」つくった制度が「逆効果」になってしまう理由Photo: Adobe Stock

新しいルールを形骸化させないために

新年になると「新しいルールや制度・仕組み」が導入される職場も多いと思います。

しかし、良かれと思ってつくった制度やルールがうまく機能せず形骸化したり、逆効果になってしまったりするケースも見受けられます。

これは「心理的リアクタンス」が働いているからかもしれません。人間は他人から強制されたり、圧力をかけられたりすると、それに対して反発したくなる心理が生まれるからです。

リーダーやマネージャーが組織に新しい制度・ルールを導入する際は、部下のそのような心理に気を付けるべきです。

では、どうすれば新しいルールがうまく機能するのでしょうか。

たとえば、リーダーが制度やルールを導入した理由までしっかり説明することで、制度が機能しやすくなります。

ポイントは「この制度は他の人のためにもなる」と伝えることです。自分ではなく「他の人のためになる」ことをしたくなるのは「社会的選好」と呼ばれます。

もう一つは、リーダーがトップダウンで新しい制度やルールを決めるのではなく、部下のほうから新しい制度・ルールを提案してもらうことです。

「こうしたほうがいいのでは」と部下の側から提案した制度が実際に組織に採用されると、他のメンバーも積極的に提案したくなります。

提案した人のモチベーションが高まるのはもちろんのこと、他の人も「新しい制度・ルール」に対する自発性が高まり、受け入れやすくなるのです。

(本稿は『勘違いが人を動かす──教養としての行動経済学入門』の発売を記念し、東京大学大学院経済学研究科教授 阿部誠氏へのインタビューをもとに作成しました)