自発的に開始→すぐに解除
新たに模索されている「自粛」の形
コロナ禍における自粛は「物理的」の方だが、同じ「自粛」という言葉もあってか、各人の自粛への考えがさらに深まった時期ともなった。
そして、今年の令和6年能登半島地震では、冒頭で述べた通り、ほぼ即時、各人が自発的な自粛を行い、そして1~2日もすると、その自粛を自主的に解除した。自粛開始→自粛解除それぞれの判断を下したスピード感は印象深かった。
テレビなどの大きな媒体が、東日本大震災時と違って比較的早い段階で震災報道から通常番組に戻したことが、各人が「自粛を続けるか否か」の判断に影響したことは確かだろうが、自粛に関する各人の理解や覚悟がある程度深まっていたからこそ、実現されたスピード感であったように思う。
発信者たちによるそうした自粛の開始・解除の決断は、その多くが単なる無思慮でなく、一度「思慮」を経由して行われたため、相応の説得力を伴って一般人に受け止められた。
たとえば女優の能年玲奈さんは、年賀写真に被災地へのお見舞いの言葉を添えて、スタッフと協議の結果、1月3日にインスタにアップした。「フェラーリ女子」で知られるユーチューバーのあま猫さんは、活動自粛を検討した上で、「あえて活動する」選択をしたことを発表した。
様々な見方があるので「どのやり方が良い・悪い」を一概に決めることはできないが、賛否両論ある中で、動画投稿などの発信を積極的に受け入れる意見(賛成派)が目立つのは、東日本大震災時と対照的だ。震災とコロナ禍で余儀なくされ、そして深まった「自粛にまつわる思慮」を、発信する人とそれを受け止める一般人の双方が経験しているからこその現状かもしれない。
また、心理的自粛を考える際に必ず考えられるべき「不謹慎」という概念であるが、この「不謹慎」への警戒心が今回はかつてより一般の間である程度高まっているのをうかがわせるケースも散見された。「なんでもかんでも不謹慎というのはよくない」という意見は東日本大震災当時もあったが、今回はこの考えを共有している人の割合がやや増えているようだ。
経験知をもって、今また日本は自粛と向き合っている。模索しながら「当面はこれ」と探り当てたその形が、1人でも多くの人に、よりポジティブな影響を与えることを願いたい。