「日本人男性は時間の使い方が甘過ぎる」
女性部下から見た男性社員の働き方

徳成 だから「ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン」は決してきれいごとではない。僕は銀行員時代、比較的多様な人材をマネージメントできると思われたのか、初めて課長になったとき、男女雇用機会均等法1期生の女性総合職と外国人を部下に持ったんですよ。

 当時は銀行の担当者が女性だと、取引先企業が怒って抗議に来ていた時代です。うちの会社を軽く見ているのか、と。

 その女性部下に言われたのが、「日本人の男性は時間の使い方が甘過ぎますよ」ということでした。彼女は幼い子どもがいたから、1分も無駄にしないような段取りを毎朝考えていると言うのです。

「私は朝の電車の中から、会社に着いたらあれやってこれやって、何時にこう段取り付けて……と考えている。だって絶対に17時に終わらないと、18時の保育園のお迎えに間に合わないですから。常に、なるべく効率的に仕事することを考えているんですよ」と。

 そんな彼女から見ると、男性たちはいつもダラダラして、22時頃まで残業している。それでアウトプットは彼女と一緒なのに、22時までやっているほうが頑張っていると言われるわけですよ。

 リターンオンインベストメントじゃないですけど、効率性の概念が全然ない。それって資本主義の基本的な概念でもあるけど、それが日本の会社からはすっぽり抜け落ちてしまっている。そして完全に同質な社会で、皆と同じように非効率なことをしていないと外される……というさっきの堀内さんの話につながるのですが。

堀内 だから意図的にダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンをやっていかないと、日本の会社は本当にダメになってしまいますよね。

徳成 違う考えの人、違う制約を持っている人。女性はもちろん、ハンディキャップの人だろうが介護を抱えている人だろうが、いろんな人を入れていかないと会社としての力が必ず落ちてくると思います。

 飲みに行ったり、頑張りを見せるための残業時間がなくなったりすると、当然ですが時間が生まれます。その時間はどう使ってもいい。本を読むのでもいいし、家事育児をするのでもいいし、僕みたいにおやじバンドをやるのもいい(笑)。

 何でもいいんだけど、そこから何らか世界は広がるので、自分の引き出しが増えてくるんですよ。それって広い意味でのリベラルアーツだと思うんですよね。で、そうやって身に着いたものってユニバーサルで、海外に出たときにも通用するんですよ。

 僕も海外でちょっと音楽の話をすると、「おお!」と反応してくれる人にたくさん出会います。趣味的なことって、言語を超えていくんですよね。

堀内 若い世代は、少しずつ変わってきているとは思いますけどね。

徳成 ええ、さすがに変わりつつある。若い人たちは、自分にメリットがある、意味があると思えば、業務時間外の飲み会や勉強会にも参加する傾向にあります。

 僕は、若い世代から、「時間外でも付き合いたい」と思ってもらえるオヤジを目指しています(笑)。そうした自発的な飲み会なら、仕事も円滑になるし、双方にとって、また会社にとってもプラスですから。

「大学生時代が知的レベル最盛期」の人がこれから見直すべきこと徳成旨亮(とくなり・むねあき)
株式会社ニコン取締役専務執行役員CFO。
慶應義塾大学卒業。ペンシルベニア大学経営大学院(ウォートン・スクール)Advanced Management Program for Overseas Bankers修了。三菱UFJフィナンシャル・グループCFO(最高財務責任者)、米国ユニオン・バンク取締役を経て現職。日本IR協議会元理事。米国『インスティテューショナル・インベスター』誌の投資家投票でベストCFO(日本の銀行部門)に2020年まで4年連続選出される(2016年から2019年の活動に対して)。本業の傍ら執筆活動を行い、ペンネーム「北村慶」名義での著書は累計発行部数約17万部。朝日新聞コラム「経済気象台」および日本経済新聞コラム「十字路」への定期寄稿など、金融・経済リテラシーの啓蒙活動にも取り組んできている。『CFO思考』は本名での初の著作。

(第5回に続く)