「世代を問わず、昔に比べて健康志向が高まり、飲酒や喫煙のリスクが問題視されています。さらにコロナ禍をきっかけに、健康志向はより加速しました」

 特に、若い世代ほど、「娯楽」としての飲酒の価値が相対的に下がっていると話す。

「一言で言えば、飲酒はコスパが悪いということに尽きると思います。一般的に飲酒のメリットは、楽しい気分になる、コミュニケーションが円滑になるなどがあると思います。一方、デメリットは健康への悪影響、そしてコストがかかること。さらに飲み会に行けばお金だけではなく体力や時間も使いますし、酔っ払ったことで失敗行動のリスクも上がります。飲酒のメリットよりもデメリットの方が大きいと考える若者が増えている結果だと思います」

 ネットやSNSの浸透によって、わざわざコストをかけてリアルでコミュニケーションを取る必要性は低下してきている。

「実際に会わなくても、SNSでゆるくつながっていられるため、若者のリアルでのコミュニケーション欲求自体が下がっているのだと考えられます。またアルコール以外の娯楽が増えていることも大きいですね。動画配信やSNSなどの情報をチェックするだけでも多くの時間がかかりますし、今の若い人は、飲酒以外にやることがたくさんあって、忙しくなっています」

 そんな多忙な若者にとって、飲酒はコスパもタイパ(タイムパフォーマンス)も悪い娯楽であり、優先度が低くなってしまうのも当然なのかもしれない。若者は昔よりもシビアに自分の行動を取捨選択していると久我氏は分析する。

「今の30代以下は『デジタルネイティブ世代』と言われ、物心ついた時からネットが普及している世代。何を決めるにも大量の情報の中で、より良いものは何か、パフォーマンスがいいものは何かという取捨選択をし続けて、大人になっています。だから、より現実的な思考が高まっているのです」

 若者が現実的で堅実な選択をするようになった背景には、いつまでも上向かない日本経済への不安感も影響しているようだ。

「今新卒は売り手市場ではありますが、一方で非正規雇用の割合を見ると、今の20代後半~30代前半は、その親世代と比較すると、約5倍増加しています。さらに、正社員になれたとしても、終身雇用は崩れつつあるし、必ずしも年齢とともに賃金が上がるわけではありません。高齢化で将来の年金やお金への不安も尽きない。そんな厳しい現状で、間違った選択をしたくないという意識が強まっているのだと思います」

 将来の不安などから、財布のひもが固くなっている若者にとって、飲酒は「費用対効果に見合わない娯楽」とジャッジされている。そんなシビアで現実的な若者の間で注目されているのが「アルコールは別に必要としないが、気分だけは楽しみたい」という人向けのノンアルコールや微アルコールの商品だ。

「健康意識の高い若者の間で注目されているのがノンアルコール商品です。(前述の)飲酒習慣率の調査によると、20代男性の半数ほどが『日頃ほとんどお酒を飲まない』もしくは『全く飲まない』と回答しています。こういった『お酒に弱い体質ではないけど、あえて飲まない』を選択する『ソバーキュリアス』な人々が好むのがノンアルコールや微アルコールと呼ばれるものです」

 ノンアルコール・微アルコール飲料はまさに「酔っ払いたくはないが、飲酒気分は味わいたい」という人にはうってつけの商品だ。実際、ここ数年でノンアルコール飲料の市場は大きく拡大し、各メーカーから新商品がこぞって発売されている。サントリーの推計では、ノンアルコール飲料の21年の市場規模は10年前の約2倍に膨らんでいるという。