まず、今日の中国軍に台湾侵攻をスムーズに行える能力や規模は整っておらず、仮に実行に移しても失敗に終わるとの見方が強い。侵攻作戦の失敗は習政権にとって大きな汚点となり、共産党体制の権威が大きく失墜することにもなり、失敗はできない決断、行動になる。そのリスクを冒してまで侵攻の決断を下すとは考えにくい。
また、今日の習政権は経済成長率の鈍化や不動産バブルの崩壊、経済格差や若年層の高い失業率、外資の対中投資意欲の衰退など多くの経済的課題に直面しており、米国など諸外国との経済関係が必要以上に悪化することは避けたい。
台湾侵攻が世界経済に与える影響は寛大で、米国など欧米陣営から中国へ経済制裁が強化される可能性もあり、まずは国内の安定を考える必要がある今日の習政権にとって、台湾への軍事作戦のハードルは極めて高いだろう。
日本企業で連鎖的に
広がる台湾有事の懸念
近年、日本企業の間では台湾有事を巡る懸念の声が広がっている。これは多くの企業に政治リスク分野でコンサルティングを行っている筆者も肌で強く感じるところだ。企業にとって台湾市場への依存度が異なるので、当然だが、つながりが深い企業ほど懸念の声が強い。
全体としては、各企業がそれぞれ懸念を主体的に抱き始めたというより、「関係企業が台湾有事を見据えた危機管理体制を強化しているので、我々もそれを検討している」という感じで、連鎖反応的に拡大しているというイメージが強い。
いずれにせよ、今回の総統選挙における企業の関心は非常に強かったというのが印象だ。そして、上述の通り、次期総統が頼氏に決定したことで、筆者は今後も中台関係の冷え込みは続き、経済的・軍事的圧力が引き続きかけられ、特に台湾は輸出入の双方で中国が最大の貿易相手国であることから、あらゆる形で揺さぶりが仕掛けられるリスクをコンサルティング先の企業に伝えている。
また、繰り返しになるが、それによって台湾有事のリスクが現時点で高まっているというわけではなく、必要以上に懸念を強める段階ではないと提言している。
これに対して、企業側からは脱台湾を進めるとの声は聞かれないが、さまざまな意見が上がっている。