自分の考えや思いをわかりやすく相手に伝える。そのためには、思考を言語化する力が必要だ。しかし、ただ言葉を尽くして話しさえすれば、相手にきちんと伝わるわけでもない。
文章や話し方の専門家であり言語化のプロである山口拓朗氏は、著書である『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』で、「言語化して相手に届ける言葉や文章というのは、相手へのプレゼント」と話す。相手に「伝わる」形で伝える方法とは? 本書の内容をもとに解説する。(構成:神代裕子)
話し過ぎても「伝わらない」
部下の育成を任された時に、ついつい「話しすぎた」という経験をしたことはないだろうか?
筆者は、部下に仕事の説明をしているうちに、関連している事項をあれもこれもと話してしまい、部下に戸惑った顔をさせてしまったことがある。
その表情を見て、「しまった! もっと簡潔にわかりやすく伝えればよかった」と反省したものだ。
仕事をする上では、言語化する力は非常に重要なものだ。指示を出す際にも、企画を人に伝える際にも、うまく言語化ができなければ物事はスムーズに進まない。
しかし、この「言語化」というのは、情報量多く、言葉を尽くして説明すればいいものではない。
あくまでも相手に「伝わる」ように伝えなければならないのだ。
そこで重要になってくるのが「伝え方」である。
山口氏は、「言葉は相手へのプレゼント」と語る。
これは、欲しい物を厳選して渡すことで初めて喜んでもらえるのであり、贈り物が多過ぎても少な過ぎても、相手の欲しい物からずれていても喜ばれないということだ。
本書で、山口氏は「伝わる」伝え方の大原則を5つ挙げているので、一つずつ見ていこう。
大原則① 相手が理解しやすい言葉を使う
小学生相手に東大の教授がふだん通りの授業を行ったとしたらまったく伝わらない。
それと同様に、相手にきちんと伝えるためには相手の知識レベルに合わせることが鉄則。基本ラインは「中学生でもわかるレベル」という。
たとえば、外資系コンサルタントや経営者と話すときは、カタカナ語をあえて使うなど、「相手のバックボーンに応じて使う言葉を選ぶことが大事」と山口氏は指摘する。
大原則② 一文は60~70文字まで!
文章を書く際には「一文一義を守ることが大切」と山口氏は語る。
一文一義とは、「1つの文章の中に1つの意味だけを盛り込みましょう」というお約束だ。
これを守らないと、一文の中に複数のメッセージが入り交じることになり、相手が理解しにくくなるという。
筆者もうっかりしがちなのだが、深く考えずにメールなどを打っていると、「~~が~~~で、~~~だから~~~のため」といった形で、非常に長い文章になってしまうことが多々ある。
こうなると、一文の中に複数のメッセージが入り混じってしまい、読み手は理解しづらくなる。
一文の目安は長くて60~70文字と心得ておこう。
大原則③ 「アサーティブ」に伝える
自分の気持ちを伝えることにばかり意識が向いていると、自分の意見を主張し過ぎてしまったり、相手の意見に対して否定的になってしまったりすることがある。
すると、人間関係が悪くなってしまうことがあるので、「アサーティブ」に伝えることが大事だ。
「アサーティブ」とは、相手のことを尊重しながら、自分の意見や主張、感情を伝えること。相手を頭から否定することなく、自分の意見も伝えることで、建設的なコミュニケーションが可能になる。
大原則④ 相手に「伝わっているか?」を確認する
何かを伝えている最中に「本当に伝わっているかどうか」を確認するのも大事なことだ。
山口氏は「あまり伝わっていないようであれば、説明の仕方を変えたり、情報を補足したりしましょう」とアドバイスする。
相手に伝わったかどうかを判断する方法は、相手の表情や反応を観察することだ。
そんな時は、「伝わりましたか?」「ご質問はありますか?」などと声をかけて確認しよう。
大原則⑤ 相手の「ニーズ」を把握する
相手のニーズを把握するということは、「相手にとって必要な要素を見極める」ことだ。
山口氏は「ニーズがわかると、不要な要素をばっさり切り捨てることができるほか、相手に喜ばれる『要約』もできるようになる」と語る。
具体化したさまざまな情報の中から、相手が知りたい情報はどれかを考え、相手にとって必要のないことであれば伝えないのも大事なことなのだ。
「伝え方」を身につけて、言語化力をアップ
山口氏が教える「伝え方」の大原則は、どれも簡単そうに見えるが、誰もがすでにできているかというと、「私にはまだまだ……」と思う要素もあるに違いない。
せっかく伝えたいことを具体化して、必要な情報を準備したのであれば、ぜひ「伝え方」にもこだわってほしい。
言語化のゴールは「伝わること」なのだから。