人間関係がうまくいかない原因のひとつに、コミュニケーション不足がある。コミュケーション不足によるすれ違いや誤解が原因で、相手との関係性が悪くなることを防ぐためにも、「言語化」が必要だ。文章や話し方の専門家であり言語化のプロである山口拓朗氏は、著書の『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』で、「人の頭の中は、誰にも見えません。だから言葉や文字で伝えるほかない」と指摘する。本記事では、本書の内容をもとに人間関係が良好になる言語化について紹介する。(構成:神代裕子)

言語化大全Photo: Adobe Stock

コミュニケーション不全の原因は言葉足らずにあり

 たとえば、こんな経験をしたことはないだろうか?

 上司から「あの資料、コピーを取っておいて」と言われたが、「あの資料」がどの資料かよくわからない。おそらく明日の会議の資料だろうと考え、コピーを取って渡すと「これじゃなくて、A社に持参する資料だよ」と怒られた。

 この場合、上司は「しっかりしろよ、まったく」と思っているかもしれないが、依頼された側も「わかるように、はっきり指示を出してよ」と思うに違いない。

 上司からこのような対応をされたら、誰だって理不尽に感じて思わずムッとしてしまうだろう。

食い違いを防止する「質問力」

 このケースの最大の問題は、依頼が曖昧だったことにある。

「あの資料」なんてアバウトな依頼の仕方をしたから、依頼された側は間違ってしまったのだ。

 つまり、上司の「言語化する力」が低かったことによって起きた食い違いと言える。

 では、部下には問題はなかったのだろうか?

 そんなことはない。読者もきっと「上司にちゃんと聞いて確認すればいいのに」と思ったはずだ。

 山口氏は「相手を変えることはそう簡単ではありません。あなた自身の力でこの『食い違い』を防いでいかなければいけないのです」と指摘する。

食い違いを防ぐために意識すべきは、頭に「?」が浮かんだ瞬間に質問をすることです。
「あの資料というのは、どの資料ですか?」「いつまでに何部コピーを取ればいいですか?」。
あなたがそう質問すれば、相手は具体的に答えてくれるでしょう。

質問力もまた言語化力の一部です。(P.229)

言語化力が高いとチームの生産性は上がる

「質問力も言語化力の一部」とは一体どういうことだろうか。

 山口氏は、「人に何かを言われた時に、頭に『?』が浮かぶということは、あなたの『具体化』がすでに板についている証拠でもある」と解説する。

 つまり、質問ができるということは、相手の発言に足りていない情報やおかしな情報があれば、それを見極めて聞くことができるということだ。

 適切な質問をすることで、「曖昧さを排除して、ミスやトラブルが生じる芽を摘むことができる」という。言語化力には、そんな効果もあるのだ。

 山口氏は、「自分だけでなく、周りの人の言語化力が高まったとき、そのチームの生産性は最大化する」と語る。

本書で言語化について学んだあなたには、ぜひとも、周りの人の言語化もサポートしてあげてほしいと、私は思います。(中略)
お互いの理解が深まり、誤解やわだかまりのない関係性が醸成されていきます。(P.230)

 確かに、相手の言葉足らずなところを質問することでサポートしつつ、自分の気持ちもやわらかく伝える。そういったことが互いにできるようになれば、とても働きやすいチームになるに違いない。

言語化力を高めて、人間関係をスムーズに

 山口氏は本書で、言語化力は「頭の中にある考えや思い、情報などを的確に言葉にし、相手にわかりやすく伝える力のこと」と説明している。

 確かに、人間関係において、この力が非常に大事なのは想像に難くない。

 相手をムッとさせたり、誤解させたりすることなく、適切な言葉で頭の中の考えをやり取りできれば、きっと不仲になることはないだろう。

 もちろん、関わるすべての人がこの「言語化力」に長けているに越したことはないが、なかなかそうはいかない。

 であれば、まずは自分が言語化力をしっかり身につけ、相手の言語化を質問することでサポートしてあげられるようになるのが、手っ取り早そうだ。

 気持ちの良い人間関係の構築のためにも、ぜひ言語化力を高めていきたいものだ。