こんな場面がありました。ある会合です。知人の有名実業家Aさんと、初対面のBさん。あと他数名です。途中からBさんが雄弁に語りはじめます。少し空気が読めていない感じです。しかも話の内容はAさんの専門分野です。Bさんはそのことを知らないようでした。BさんはAさんに「いかに自分がその分野に長けているか」を語っています。私を含め他の同席者は少しハラハラして聞いていましたが、Aさんは「素晴らしいですね」「なるほどですね」と関心しながら話を聞きます。Aさんは本来おしゃべりなタイプなのにあまりにもおとなしく聞いているので、私も「あれ? その話ってAさんの専門分野じゃなかったかな」と感じるほどです。

 そうして会が終わりBさんは満足げに帰っていきました。その後Aさんに本音を探ると「よくしゃべる人だよね」「たまにいるよね。ああいう人」というような言い方で実はネガティブな印象だったことを吐露しました。「自分の優秀さをわかってほしい」という想いが先行して、相手への礼儀を欠いたり不快にさせてしまったケースです。Bさんは爪を隠せず、Aさんは爪を隠していたとも言えます。

 このように「自分がよく知っていることや、自信のある分野でこそ発言や主張を控える」というのはビジネスの現場で意識しておきたいテクニックです。これは私が尊敬する先輩から言われた言葉で、今でも大事にしているコツです。

 自分が詳しいことや得意分野が話題に上がると、「それは○○だと思いますよ」とか「○○したほうがいいですね」と、つい言いたくなることがあります。しかし、「自分が詳しいことや自信あること」は強力な武器やカードですから、最初に使ってしまうのは本来もったいないのです。ビジネスは戦いに例えられることが多いですが、自信を持って言える主張は相手を制す最終兵器になるかもしれません。一時的なアピールや自尊心を満たすために使うのは得策ではありません。そこまでではないにしても、ここぞとばかりに急に意気軒昂になったりするのもあまり格好良くはないですよね。