地球誕生から何十億年もの間、この星はあまりにも過酷だった。激しく波立つ海、火山の噴火、大気の絶えまない変化。生命はあらゆる困難に直面しながら絶滅と進化を繰り返した。ホモ・サピエンスの拡散に至るまで生命はしぶとく生き続けてきた。「地球の誕生」から「サピエンスの絶滅、生命の絶滅」まで全歴史を一冊に凝縮した『超圧縮 地球生物全史』は、その奇跡の物語を描き出す。生命38億年の歴史を超圧縮したサイエンス書として、ジャレド・ダイアモンド(『銃・病原菌・鉄』著者)から「著者は万華鏡のように変化する生命のあり方をエキサイティングに描きだす。全人類が楽しめる本だ!」など、世界の第一人者から推薦されている。本書の内容の一部を特別に公開する。(初出:2022年9月4日)
「絶滅の負債」を返済するとき
人類が地球に与えた影響のほとんどは、ホモ・サピエンスが石炭の力を大規模に利用しはじめた、約三〇〇年前の産業革命以降に発生している。
石炭は、エネルギーに富んだ針葉樹林の遺物からつくられる。石炭につづき、人類は石油を発見、採掘する方法を学んだ。
石油は、プランクトンの化石が、堆積した岩石によってゆっくりとしごかれ、加熱されることで変化し、エネルギー密度の高い液体炭化水素の混合物になったものだ。
農業によって増加しはじめた人口は、化石燃料を燃やすことで拍車がかかったが、この人口爆発は、わずか数世代のあいだに起きた。
人類による騒乱
二酸化炭素は、二酸化硫黄や窒素酸化物などとともに、化石燃料の燃焼によって生じる重要な副産物だ。石油の加工により、鉛からプラスチックにいたるまで、さまざまな汚染物質が放出されるようになった。
その結果、気温の上昇、動植物の絶滅、海の酸性化によるサンゴ礁の破壊などが起きている。
これは、マントル・プルームが有機堆積物をつらぬいて燃やし、地表に到達するのと同じくらい甚大な影響だ。
ペルム紀がマントル・プルームの噴出によって苦渋の結末を迎えたのとは対照的に、今回の人類による擾乱は、きわめて短時間で終わるだろう。
すでに、二酸化炭素の排出を減らし、化石燃料以外のエネルギー源を見つけるための対策がとられている。
「何かが起きた?」
人類が引き起こした炭素の急上昇のグラフは、ピークは高いが幅は針のごとく狭く、おそらく長期的には検出できなくなるだろう。
人類が大量に存在したのは非常に短い期間であり、たとえば二億五〇〇〇万年後には、ほとんど遺骨が保存されていないはずだ。
きわめて感度の高い検出機器を使う未来の探鉱者たちであれば、新生代の氷河時代に入って少ししてから「何かが起きた」ことを示す、珍しい同位体の痕跡を検出することができるかもしれない。
ホモ・サピエンスは消滅する
だが、それが何なのか正確にいうことはできないはずだ。
今後数千年のあいだに、ホモ・サピエンスは消滅するだろう。
その原因の一つは、長いあいだ未払いになっていた「絶滅の負債」を返済しないといけないから。
人類の生息域は地球全体だが、人類は積極的に生息に都合の悪い環境をつくってきた。
絶滅の理由
人類絶滅の最大の理由は、人口の移り変わりがうまくいかないことだ。
人類の人口は今世紀中にピークを迎え、その後減少へと転じる。
二一〇〇年には、現在の人口を下回るだろう。人類の活動によって地球が受けたダメージを回復させるために、さまざまな工夫がなされるだろうが、人類は、あと数千年から数万年以上は生き残れないだろう。
人類は、もっとも近い親戚の類人猿と比べると、遺伝学的にすでに著しく同質だ。
これは、人類史の初期に何度か、遺伝的ボトルネックが生じ、その後、人口が急増したことを示している。まさに、何度も絶滅の危機に瀕した過去の置き土産だ。
先史時代、太古のむかしの出来事により、遺伝的な多様性が足りないこと、現在の生息地の喪失による絶滅負債、人間の行動や環境の変化による少子化、より局所的な、小さな集団が直面する、ほかの集団から孤立する問題などが組み合わさり、人類は絶滅するのだ。
(本原稿は、ヘンリー・ジー著『超圧縮 地球生物全史』〈竹内薫訳〉からの抜粋です)