人々の注目を集め続ける宿命を帯びたソーシャルメディアで近年、「私人逮捕系」「迷惑系」「暴露系」といわれる過激なクリエイターが増えている。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は「ソーシャルメディアが拡大一辺倒であり続けるのは無理がある」と忠告。ユーザーがアルゴリズムに支配されないことが大切と説く。
私人逮捕系クリエイターに見る
ソーシャルメディアの光と影
2023年秋から冬にかけて「私人逮捕系」といわれるYouTuberが相次いで逮捕されたことは、皆さんの記憶にも新しいかと思います。私人逮捕系だけでなく「迷惑系」や「暴露系」など、過激な動画を配信するYouTuberは年々増えています。その背景には、以前ほど再生数が伸びず収入が得られなくなったことがあるといわれています。再生数を稼ぐために、YouTuberたちがどんどん過激な方向へ走っているというのです。
「アテンションエコノミー」によって成り立つソーシャルメディアはいま、人々の注目を集め続けなければならない状態にあります。X(旧Twitter)とFacebook、TikTokとInstagramなど、プラットフォーム同士の争いもありますし、発信者同士の間の競争も激化しています。
なぜ、それほどアテンション、人々の注目が重要になっているのでしょうか。私は、それが人間の経済的欲求と承認欲求の両方を刺激するからではないかと考えます。下図の通り、経済的欲求は心理学者のマズローが提唱した「欲求の階層」では下から2階層目となる「安全の欲求」の一要素です。それと上から2階層目の「承認欲求」、この2つを併せ持つのがソーシャルメディアの特徴といえます。
牧歌的だった、かつてのTwitter、Facebookにもいわゆる承認欲求はありました。何しろ、ただの一個人が発信したものを知らない人から「いいね」で評価してもらえるのです。さらに、その評価が経済的なインセンティブにもなる仕掛けがうまく働き、やがてソーシャルメディアに光と影をもたらしました。