直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
人としての
振る舞いを学ぶ
歴史小説には、作者の人生哲学も投影されており、私たちは物語を通じて人としてのあり方や振る舞いを学ぶことができます。
池波正太郎の作品には、主人公がしばしば仕事の中で身銭を切る姿が描写されます。
池波先生自身、エッセイなどでチップの習慣についてたびたび言及しています。
ちょっとした心遣いで
自分も相手もいい気分
タクシーに乗ってメーターが500円だったら600円を渡す。たった100円でも、渡せば自分が気持ちいいし、もらったほうもいい気分になれます。
それが社会全体に広がっていけば、私たちが住む世界はもっと良くなるというわけです。
池波先生は、旅館などに泊まるときは、心づけを先に渡すと書いていました。最初に渡せば、サービスが良くなって快適に滞在できるからです。
高校の卒業旅行で
心づけを手渡す
それを読んでいた私は高校の卒業旅行の際、ポチ袋に1000円札を入れて旅館の仲居さんに渡したことがあります。ずいぶんませた高校生です。
仲居さんにびっくりされ、「ご両親が立派な教育をされているんですね」と言われたので、「いえいえ、池波正太郎先生の教えです」と答えた記憶があります。
お釣りをもらわない
今でも「身銭を切る」ことを心がけています。
旅館に宿泊するときには必ずポチ袋を持参しますし、タクシーではお札で渡してお釣りをもらわないようにしています。
電子決済が普及した今では、それも難しくなってきたのですが……。
義理人情には
きちんと応える
あるとき、地元で利用したタクシーの車内に忘れ物をしてしまい、直接持ってきてもらったことがあります。
運転手さんからは「無料でいいです」と言われたのですが、「これでコーヒーかタバコでも買ってください」と心づけを渡しました。
運転手さんは思った以上に喜んでくれ、「つかまらへんときとか、いつでも行くんで」といい、名刺を渡してくれました。
心が温まる
お金の使い方
今、東京出張のため早朝に出発することもあるのですが、滋賀県はタクシーが少ないので、駅までの足に困るケースが多々あります。
そんなときに電話をすると、その運転手さんが駆けつけてくれます。もはや専属タクシーみたいなものです。
ある年末、子育てをしているわが社のスタッフにお年玉を渡したら、年明けにそのスタッフから動画が送られてきました。
見ると、幼稚園児と小学生の女の子2人が正座をしながら「今村先生、お年玉ありがとう」と挨拶をしていました。本当にいいお金の使い方をしたと思ったものです。
生き金を使う
ことの大切さ
私は1円でも無駄なお金を使いたくない性分ですが、生きたお金なら惜しまずに使おうと思っています。
稼ぎのあるなしとか金額の大小にかかわらず、生きたお金を使うことの大切さを池波正太郎から教えてもらったのです。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。