大学を卒業しても、内定率は20%にも満たない

 背景には、新型コロナウイルスが収束しても、一向に中国経済が回復しないこと、不動産市場の停滞、輸出の減少、さらに政府によるさまざまな規制が雇用市場に打撃を与えたことなどがある。不動産関連の大手企業やIT企業が人員削減に追い込まれ、新卒採用も激減した。その一方で、中国の大学卒業生の数は年々増加しており、今年の夏には約1179万人に達すると予測されている。

 中国のシンクタンクによると、昨年の大学卒業生の内定率は20%にも満たない見込みだという。16~24歳の失業率は21.3%と過去最高を更新し(2023年6月の数字)、その後、中国政府は失業率の公表を一時停止。調査方法を見直して再開したが、北京大学の経済学者は「実際の(16~24歳の)失業率は47%に上る」との見解を明らかにしている。実際、筆者の知人で、今年の夏に卒業予定の大学4年生の女性も、「100社以上に応募したが、まだ1社も内定を得られていない」と落胆している。

 このような状況の中、若者は就職先や給与に対する期待を下げざるを得なくなり、就職に対する考え方が大きく変わってきている。

 一部の大学4年生は、「時間稼ぎ」のために大学院へ進学する選択をした。また、給与は多くなくても、公務員や国有企業など安定した就職先への関心が高まっている。2024年の国家公務員試験の応募者数は過去最高の303万人に達し、平均競争率は77倍と報じられている。これまで名門校の卒業生なら見向きもしなかった地方の政府機関への応募が殺到し、高学歴者がプライドを捨てて“身分相応でない”とされる現場作業や力仕事に就くといった現象が、社会的に注目を集めている。

激しい競争の中で、若者が「謙虚になった」?

 最近、中国では失業に関する新しい流行語が生まれている。例えば「全職児女」はその一例で、親と同居し、ある程度の家事を手伝いながら経済的支援を受けて仕事を探し続けるライフスタイルを指す。しかし、これができるのは都会出身の若者に限られる。地方出身の若者の多くは、デリバリーやネット配車のドライバーといったアルバイトで生計を立てているのが現実だ。これらの職業は総称して「○[「ヨ」の下に「火」]活就業」と呼ばれており、「特定の企業や組織に所属せず、自由で柔軟な働き方」を意味する。これらの仕事は単価が低く過酷な労働条件にもかかわらず、応募者が殺到しており、大卒、院卒といった高学歴な労働者が増えている。

 激化する競争の中で、若者の考え方や行動は大きく変わってきた。筆者は仕事柄、中国の若者と接する機会が多い。コロナ前、彼らは日本の関係者と意見交換する場などでも、いつも自信満々な語り口だった。「○[がんだれの下に「万」]害了!我的国」(すごいぞ!我が国)という言葉が流行していたように、自国を誇りに思い、未来を確信していた。時には日本に対して、やや上から目線で語ることも多かったので、日本人の目には「自信家だね」「スマートだけど、ちょっと生意気」と映ることもあったのだ。

 ところが昨年あたりから、こうした若者の強気な態度や目の輝きがどこかへ行ってしまったのだ。若者たちは全体的に控えめになり、よく言えば「謙虚になった」という印象を受けるようになった。先日、筆者が数年ぶりに中国を訪れた際、サービス業に従事する若者の振る舞いが以前に比べて落ち着きを見せ、礼儀正しくなっていることに気が付いた。また、レストランなどで若者たちが集まると大声で意気揚々と会話する光景をよく見かけたのだが、それもすっかり減少してしまった。