一審は敗訴。2月2日、控訴審判決が東京高裁であり「厚生労働行政に違法性はない」とした一審判決は覆らず、控訴は棄却された。

 しかし、谷口園恵裁判長は、「賃金水準の低さとこれを一因とする慢性的な人手不足は長年にわたり問題とされながら、いまだ問題の解決に至っていない」と、ホームヘルパーの置かれた状況を認めた。

 控訴は棄却されたが、労働環境の厳しさは判決が認めた点について、3人は前向きに評価した。「声をあげると同時にヘルパーの仕事がどれだけ魅力的なのか同時に発信したい」と、伊藤さんは言う。

「介護難民にさせない」
高齢者の人権を守る戦いは続く

「訪問介護のヘルパーが1カ月待ち!」介護難民を続出させる介護報酬アップの本末転倒判決の内容を支援者たちに示す原告と弁護士ら(2月2日東京都千代田区で) K.Murata

 伊藤さんの配属する訪問介護事業所がある東京都三鷹市では、昨年12月「高齢者計画・第九期介護保険事業計画(素案)」を公表した。伊藤さんが他の訪問介護事業所に声をかけて、市の事業計画に対するパブリックコメントを出した。政策にヘルパーたちの視点や意見を盛り込んでもらうためだ。

「このお正月にもある利用者さんから『待っていたよ』と声をかけてもらいました。『利用者さんが頑張って生きているんだから、私も頑張る』という気持ちになれたのはこの仕事のいいところなのです」(伊藤さん)

 単なる賃上げの運動ではなく、介護従事者や事業者、利用者とその家族も連携して、介護難民にさせない高齢者の人権を守る運動が必要という。3人のヘルパーは高裁の判決の取り消し、変更を求める申し立てを行うため2月15日に上告した。

 2020年には約114万人だった在宅介護の利用者は、2040年には約152万人増加すると推計され、事業所とヘルパー不足が深刻化するという。

 対岸の火事ではなく「自分事」として、介護保険制度を考えてみることが大切だ。

(ジャーナリスト 村田くみ)