介護報酬とは介護サービスを提供した事業者に支払われるもので、3年に一度見直しが行われる。2024年度から介護サービス全体の改定率は1.59%のプラス改定となった。厚生労働省は人手不足が深刻な介護職員の「処遇改善」に焦点をあて、特別養護老人ホームなどのサービスに対しては基本報酬を上げたが、訪問介護はマイナス改定となった。例えば、生活援助(45分以上)の場合、マイナス5単位となり、1回の報酬は2250円から50円下がる(表1参照)。

「訪問介護のヘルパーが1カ月待ち!」介護難民を続出させる介護報酬アップの本末転倒

人手不足の訪問介護が
なぜマイナス改定のターゲットに?

 訪問介護の現場からは「ホームヘルパーが集まらない」といった苦境の声が相次いで上がっているのに、なぜ「訪問介護」がマイナス改定のターゲットになったのか。

 2月1日、認定NPO法人「ウィメンズアクションネットワーク」(上野千鶴子理事長)、NPO法人「高齢社会をよくする女性の会」(樋口恵子理事長)など5団体が、報酬引き下げに抗議し、撤回を求める緊急声明を公表するため厚生労働省で会見を開いた。その中で報酬改定の〝カラクリ〟が明かされた。

「私自身も訪問介護事業者を運営する事業者の立場でありますが、今回は驚きとともに絶望感に似た感覚に襲われました」と危機感をあらわにしながら、マイナス改定に至る根拠を解説したのは、呼びかけ団体の一つ「ケア社会をつくる会」世話人の小島美里さんだ。

 厚労省が昨年11月公表した「介護事業経営実態調査」によると、訪問介護の収益率が7.8%の黒字で、全サービス平均2.4%を大幅に上回ったことが引き下げの理由になったと指摘する。

「訪問介護事業所のうち、高い収益を上げているのはサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)といった併設型の事業所です。その一方で、地域の小規模事業者は撤退・倒産しています。集合住宅に併設されている事業者と、地域の中を一軒ずつ訪ねる事業者とは経営状態が異なるので、カテゴリーを分けるべきです」(小島さん)

 東京商工リサーチの調べによると2023年の訪問介護事業者の倒産件数は過去最多を上回る67件に達した。また、倒産以外でも事業を停止した休廃業・解散が広がっている。