大目的と小目的は、
2階建てになっている

「第一の顧客」と「支援してくれる顧客」を創造し維持することによって(小目的)、「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす」(大目的)。

 事実、売上げや利益、株主価値といった財務業績にかまけている企業より、顧客やコミュニティを第一に考えて行動している企業のほうが持続可能性(サステナビリティ)が高いと報告する研究は少なくありません。

 このように、目的は大目的と小目的の2階建てになっています(ちなみに、その中間に「駆動目標、あるいは中目的」があるといわれることもあります)。前者の小目的は、一般的に大目的を実現するうえでクリアすべきものであり、多くの場合、複数存在します。
 たとえば、近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の「三方よし」は小目的といえるでしょう。

 また「先義後利」という商いの格言がありますが、これは、古代中国の儒学者、荀子(じゅんし)が述べた「義を先にして利を後にする者は栄え、利を先にして義を後にする者は辱められる」という戒めから生まれたもので、これも小目的です。いずれも、大目的のために求められる姿勢を表現しています。

 稲盛和夫さんに大きな影響を与えた「石門心学(せきもんしんがく)」の創始者石田梅岩(ばいがん)は『都鄙問答(とひもんどう)』という本のなかで「富の主(あるじ)は天下の人々であり、天下泰平を願い、聖人の道を知れ」と言っています。この主張も、小目的の一種です。

 一方の稲盛さんは、日本航空の再建に再上場という区切りがついた2012年の講演で、次のように発言しています。

「会社の目的を『全社員の物心両面の幸福追求』と定義(した)。社員が誇りとやりがいを持てれば、結果として業績や株主価値向上に貢献できる」。これは、小目的です。同時に「自分たちのためだけではない。日航再建は社会のためにも必要だ」とも述べ、より大きな社会的な目的も強く意識していたことを明らかにしています。

 そのほか、「日本一になる」「世界一になる」、または「天下統一」「世界制覇」といった野心も、大目的ではなく、むしろ小目的です。つまり、肝心なのは、日本一(あるいは世界一)になった後なのです。