CSV(共通価値)は目的ではなく、
大目的を実現するためのツール

 いま静かに流行りつつあるCSVですが、その提唱者であるネスレには、「グッドフード、グッドライフ」という企業理念(大目的)があり、その実現のために、140年という歳月を通じて練り上げられてきた「ネスレの経営に関する諸原則」という事業の羅針盤があります。そしてCSVも、大目的である企業理念を実現するためのツールです。

 ですから、CSV、CSVと祭り上げて、CSVを目的化していては、それこそポーターが1979年に発表した競争戦略論に退行してしまいます。つまり、CSVによって独自のポジショニングを確保し、競争優位を獲得する、という「企業の目的(パーパス)はやはり利潤の最大化」を前提とした考え方です。せっかくポーター自身ですら、この呪縛から解放されたというのに、みなさんが先祖返りしては本末転倒というものです(事実、ポーターのCSVには、人間の動機など根本的要素が欠け、戦術的な修正が施されているにすぎない、といった批判もあります)。

 アメリカでは、不正会計や金融犯罪など企業不祥事が起こると、必ず登場してくる言葉があります。それは「コモン・グッド」(common good) ― 日本語では「共通善」と訳されています ― というボキャブラリーです。

 たとえば、産業界には共通善が不在であるとか、ビジネス・リーダーたちは共通善の心を養う必要があるといった声が上がってくるのです。ちなみに、「白熱教室」でいちやく有名になったハーバード大学教授のマイケル・サンデル氏が研究しているテーマがこの共通善です。

 共通善とは、字義通り、社会や共同体のメンバーに共通する「善なる価値」です。大目的はこの共通善に根差したものであるべきであり、その実現にはまさしく利他の心が求められます。

 ドラッカーは、「企業の目的(パーパス)は顧客の創造と維持」であると述べたわけですが、最終的にたどり着いたのが「非営利組織にマネジメントの本質がある」という考え方です。

 いわく「非営利組織には、『第一の顧客』と『支援してくれる顧客』の2種類の顧客が存在する。『第一の顧客』はその活動によって生活が改善される人々、『支援してくれる顧客』はボランティア・メンバー、パートナー、資金提供者、委託先、職員、その他の人々である」

 そして他界するまでずっと、「企業は非営利組織に学ぶべきである」と訴え続けたわけですが、この定義は、言うまでもなく営利組織にも当てはまるものです。そこで、この点を踏まえたうえで、あらためてドラッカーが言うところの目的(パーパス)を整理してみたいと思います。