「手段の時代」から「目的の時代」へ――はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく。『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の第1章「利益や売上げは『ビジネスの目的』ではありません」を、順次公開している。

第5回では、本書の大きなポイントの一つである「目的の種類」について紹介する。つまり、目的には「大目的」と「小目的」があり、それらが正しく、うまく組み合わされた時に、大きな求心力が生まれるのである。

大目的、小目的って何だ?

第1回に話を戻しますが、ポーターは、講演の最後で使う「ビジネスの目的」というスライドで、次のようなことを記しています。

●社会のなかで企業が果たすべき役割について、これまでの考え方とやり方を改めなければならない。
●共通価値を志向することで、経済的価値を創造するチャンスは無限大に広がる。
●共通価値について考えることで、次なるイノベーション、生産性の向上、経済成長が促される。
●共通価値によって、まったく新しいマネジメントの考え方が生まれてくる。
●企業は、慈善活動ではなく事業活動を通じて、社会的な課題に大きな影響を及ぼすことができる。
●共通価値にまつわる企業活動を改革することで、企業は目的(パーパス)だけでなく、事業の正当性をあらためて知らしめる機会が得られる。

 一読する限り、共通価値を創造すること、言い換えれば「社会的な価値をもたらし、かつ利益を生み出す事業を創造する」ことが目的(パーパス)であり、ドラッカーが言うところの目的(パーパス)とはちょっと違う感じです。

 実は、どちらも目的(パーパス)なのです。ただし、ポーターがここで言う「共通価値を創造する」ことは「小目的」と呼ぶべきもので、ドラッカーが思い描いた「社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす」は「大目的」といわれるもので、小目的の上位に位置づけられる目的(パーパス)です(図表1-3「大目的と小目的」を参照)。

 そこで、このように言い換えることができます。

 社会的な目的を実現し、社会、コミュニティ、個人のニーズを満たす(大目的)ために、企業は社会にも自社にも価値をもたらす共通価値を追求して、社会と共存共栄すべきである(小目的) 。