大目的が見失われると、
会社はおかしなことになる

 すると、メガ・ヒット漫画『ONE PIECE(ワンピース)』の主人公、モンキー・D・ルフィの決め台詞「海賊王に俺はなる!」は、小目的といえます。

 われわれが勝手に想像するところでは、ルフィの大目的は「だれも自由である世界をつくる」ことにあるのではないでしょうか。

 たとえば、義兄弟のエースと「俺たちは悔いのないように生きるんだ。だれよりも自由に」と誓い、かつての海賊王の右腕レイリーから「君にこの強固な海を支配できるか!?」と尋ねられ、「支配なんかしねぇよ。この海で一番自由なやつが海賊王だ!!」と答えています。また、天竜人と世界政府との戦いは海賊王になるためではなく、「自由」を求めてのことでしょう。

 実は、多くの人が、ルフィのように、自分の大目的に気づいていなかったり、無頓着であったり、あるいは聞かれても答えられなかったりします。

 その理由は、やや身もふたもない答えになりますが、そのようなことを問われることがないからです。そのため、大目的どころか、小目的すらはっきりしていないという人も少なくありません。これは残念なことです。

 はなから大目的を思い描くか、小目的を明らかにして、そこから大目的を導き出すか ― 神の啓示を受けたがごとく、ある日突然、大目的に目覚めることもあるかもしれません ― そこに至る道筋はともかく、大目的がはっきりすると、現在の仕事の「意味」、これまでのキャリアの「価値」、もしかすると人生の「針路」も見えてきます。

 ちなみに、紀元前4世紀のギリシャに生きた偉大なる哲学者アリストテレスは、万人が人生の究極の目的として求めるものは「幸福」であると述べました。

 これまで紹介してきた起業家たちはもとより、さまざまな分野でだれもが素晴らしいと認める業績を残してきた偉人たちは、大目的に目覚めた人たちでした。そして、先ほど申し上げたように、大目的は共通善に基づいていますから、ほとんどの人の共感を呼ぶもの、言い換えれば小目的を包含するものであり、それゆえ求心力になるのです。

 ソーシャル・アントレプルナーが世界各地で登場していることもそうですが、彼らが成功を収めているのは、また失敗してもくじけないのは、多くの仲間がいるからです。それもこれも、ソーシャル・アントレプルナーの目的(パーパス)が共通善に根差しているからにほかなりません。

 金儲けが目的化し、日々数字で管理している組織では、ちょっと業績が悪くなると、「だれのせいなのか」と犯人捜しが始まったり、社内政治が騒がしくなったり、よし悪しを問わず「聖域なきコスト削減」が行われたり、そもそもは経営者が無能だったせいにもかかわらずリストラに踏み切ったりします。

「これが現実である」と言われれば、そうなのかもしれませんが、ビジネスの世界では、こういうことがもう何世紀以上も繰り返されており、だれもが「望ましい」ことだとは思っていません。

 つまるところ、進歩がないのです。もういい加減、やめませんか。

(次回は4月4日更新予定です。)


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目的には「大目的」と「小目的」の2種類がある。<br />偉大なリーダーたちが駆使する両者の関係とは?<br />――本文から(その5)

アインシュタインも語った――「手段はすべてそろっているが、目的は混乱している、というのが現代の特徴のようだ」
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紺野 登(Noboru Konno)
多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。

目的工学研究所(Purpose Engineering Laboratory)
経営やビジネスにおける「目的」の再発見、「目的に基づく経営」(management on purpose)、「目的(群)の経営」(management of purposes)について、オープンに考えるバーチャルな非営利研究機関。
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