たとえば、具体的に親の年収がいくらかということまで伝える必要はないかもしれませんが、これまで子を育てるのにどのくらいの費用がかかっているのかは、他人には決して聞くことも教えてもらうこともできない、貴重でリアルな情報です。具体的には、学費はどれくらいなのか。1カ月生活するのに、ローン(家賃)をいくら払い、食費、光熱費、携帯代がどれくらいかかり、合計するといくら必要なのか、といったことです。
もちろん学生でも、1000万円の年収があったとして、それがまるまる自分の自由に使えると思っているわけではありません。しかし、社会人経験がない学生には、漠然と「高い年収」くらいにしか考えられない人も少なくないはずです。だからもうすぐ巣立っていく子に対して、このタイミングでこそ、お金にまつわるご家庭の真実をきちんと話しておいてほしいのです。
たとえば、会社勤務で年収1000万円(年間給与所得が1000万円)と言ったとき、所得税、住民税や社会保険料、復興特別所得税などを会社に天引きされて、手取り年収は720万円くらいになるでしょうか。そこから、普段の生活にかかる住居費、光熱費、食費、携帯代、そして医療費などを引いていくと、現実的にいくら手元に残るのか、いくら貯金できるのか、どのくらいのレベルの生活ができるのかが見えてきます。
そして、生活や教育にかかったお金に加えて、親は自分の仕事の話も是非してほしいと思います。「仕事で関わった取引でどのくらいのお金が動いたのか」といった業務に絡むお金のリアルな話は、なかなか企業説明会では聞けません。親がリアルに自分の仕事の内容を話してあげることで、「どのくらいの労働をすればどのくらいもらえるのか」といった、働くことの感覚が子にもつかめてくるでしょう。
お金とキャリア観が結びつけば
より具体的な未来が描ける
そのような話をした後には、子が就職を希望する会社について、「そこに就職したらどれくらい給料がもらえて、生活費を引いたらどのくらい手元に残りそうか」といった話をすることができ、結果的に「その会社に就職して大丈夫なのか」という話ができるようになります。結婚、出産、子の教育、扶養家族にどれくらい生活費がかかるのか、その上でこの年収ならどの程度の水準の生活ができるのか、という地に足のついた根拠を基に志望企業について考えることができるのです。