直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
戦国武将・加藤嘉明のエピソード
私は、各地で講演をする機会も多いですが、ふと「10年前の自分が同じ話をしたら、誰も耳を傾けなかっただろう」と思うことがあります。
そんなときに思い出すのが、『名将言行録』にある彦根藩2代藩主・井伊直孝のエピソードです。
『名将言行録』では、伊予松山藩および陸奥会津藩初代藩主・加藤嘉明にまつわる次のようなエピソードも好きです(島津義弘など別の人物のエピソードとして紹介されることもあります)。
手が焼け煙があがったのに
なぜ何事もない態度なのか?
あるとき小姓らが囲炉裏(いろり)の火箸を焼いて遊んでいました。誰かが知らずに触ったら驚くだろうと、悪戯(いたずら)を仕かけたのです。
そこに主君の嘉明がやってきて、火箸に手を伸ばします。小姓らの顔は青ざめますが、時すでに遅し。
嘉明の手が焼け、煙が上がりますが、声を上げるでもなく、何事もなかったかのように灰に火箸を差して戻しました。
誤って皿を割った小姓を
叱ることなくとった主君の行動
また別のときには、嘉明が所有している10枚一組の高価な小皿があり、小姓の1人が1枚を誤って割ってしまいました。
それを聞いた嘉明は、小姓を叱るのではなく、なんと残り9枚の皿をすべて叩き割りました。
残りの9枚がある限り、割った人の失敗を皆がいつまでも思い出すことになる。だったら、全部割ったほうがいいという判断です。
リーダーシップを学ぶ
うってつけの歴史書
こんなふうに、ちょっとできすぎた逸話とも言えますが、一つひとつの話が武将の性格を表していて興味が尽きません。
部下として勉強になる話もあれば、上司として勉強になる話もあるので、『名将言行録』の一読をおすすめします。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。