家業を熟知しないと
新規事業はうまくいかない

“アトツギ”が社長になる前にやるべき5つのこと、「カッコイイ事業承継」の伝道者が指南一般社団法人ベンチャー型事業承継代表理事の山野千枝氏。ベンチャー企業、コンサルティング会社を経て、「大阪産業創造館」の創業メンバー。ビジネス情報誌の編集長として多くの経営者取材に携わる。2018年より現職  写真提供:本人

「大前提として、家業を“熟知”することです。家業のことをよく理解しないまま、業務改善を行ったり新規事業を起こそうとしたりしても、うまくいきません」

 一番大事なのは、「会社の強みは何か」を把握すること。表面的には開発力が優れている会社でも、その開発力を支えているのは社風なのか、社員を育てるノウハウなのか、因数分解して理解する必要がある。

 そのために、売上高の構成比はどうなっているか、社員や顧客にはどんな特徴があるか、今抱えている問題は何かといった現在の会社の状況だけではなく、何で業績を上げてきたか、ピンチをどう乗り越えたか、これまでの歴史も調べよう。

「ある後継ぎは、全く違う業界で数年働いた後で家業に戻ったとき、業務の中で数々の違和感を覚えて、それを逐一メモしていったそうです。メモ帳何冊分にもなったそうですが(笑)、これも家業のことを理解して改善していくための良い手段ですね」

 今は修業のために別の仕事をしているという人は、何らかの形で、少しでも家業に携わっておくのも手。例えば広告代理店に勤務しながら、家業の通販ビジネスを手伝う、といった形だ。まだ継ぐか分からないが、東京で他の企業に勤めながら、地方にある実家の商売を手伝ってみるというケースは増えているという。ただし、副業を推奨していない企業も多いので、もしNGなら無報酬で行おう。

 家業を継ぐと決めたら、先代とのコミュニケーションは不可欠。親子や親族の場合これが意外と難しく、しっかり話し合わないまま家業に入って、相互理解より先にあつれきが生まれる場合も多い。

「先代と後継ぎの間は、親との子の場合通常30歳ほどの年齢差があります。当然ジェネレーションギャップがあって、親は子どもをまだ未熟だと思い、子どもは親を古くさい存在だと思っている。結局玉虫色のコミュニケーションになるか、全く会話をしなくなるかどちらかになることもあります。これは昔から存在する永遠の課題です」

 解決するには、「分かっているだろう」という暗黙の了解はないものとし、議論を戦わせること。

 また、何事も「会社を存続させる」ことを軸にして、コミュニケーションを取るとスムーズにいくことが多い。未来に目線を合わせて結論を導くことができるからだ。

「先代はどうしても、過去に意識が向きがちです。後継ぎが見るべきは、ここから20年、30年先。未来を見据えた戦略を持ち、それをうまく先代に伝える技を磨きましょう」

 例えば、手形取引を見直すこと一つ取っても、「長年このやり方だから」と、先代はやめることを躊躇するかもしれない。しかし、将来に向けて変えたほうがいいと思ったら、やめるべき。顧客に申し出たら、あっさりOKだったという話もよくある。