人生を棚卸しして
「自分らしさ」を家業にプラスする
「“自分らしさ”を掛け合わせて、家業をアップデートしていくのは、絶対に必要なこと」と言う山野氏。
そのためには、家業の熟知に加えて、「自分の棚卸し」も行いたい。これまでの人生を振り返り、自分の強みや得意なこと、そして好きなことや興味があることは何かを把握して、言語化することだ。
例えば「日頃から注目している社会課題」を解決するために家業が果たせる役割は何かを考えて事業に結びつける、といった具合。軸足は家業に置きながらも「ピボットターン」で外の世界に働きかけて新機軸を作っていく。
主体性を持って家業と向き合うことは、自身のモチベーションアップになるだけではなく、会社のためでもある。山野氏はこれまで、「たまたまその家に生まれて仕方なく後を継いだ」という“犠牲感”満載で経営を行う後継ぎを何人も見てきた。
「社長がやらされている感じでは、社員もついてきません。結果的に社内全体に覇気がなくなり、業績も悪くなりますよね。後を継ぐと決めたら、自分の熱狂できる世界に“家業を寄せていく”ぐらいの気持ちで進んでいくのが、ちょうどいいと思います」
後継ぎというと、一昔前までは、「ボンボン」「親の七光り」などという言葉に代表されるように、世間的にもあまりいいイメージがなく、本人たちも肩身が狭い思いをしていた側面がある。一方で、周りからは「実家を継ぐから安泰だね」と言われたりもする。その悩みは独特で、会社員の友人などにはなかなか理解されないことも多い。
山野氏は、「経営者になる前に、できるだけ後継ぎ同士でつながっておくと良い」とアドバイス。先代とのコミュニケーションの取り方から古参社員との付き合い方、将来の経営についてのことも、同じ「後継ぎ」という共通項があれば、話を分かってもらいやすい。
「最近はSNSで、アカウント名を後継ぎだと分かるようにして、意見を発信する人も増えています。後継ぎ同士でつながって悩みや解決策をシェアしたり、オフラインでイベントを開催したり。一人でもんもんと悩む時代ではないのです」
最初は愚痴の言い合いでも、自分よりもっと大変な状況の中で頑張っている人がいることを知ると、言い訳してはいられない。お互いが刺激を受け合って前向きに行動を起こすきっかけになる。継ぐ前につながっておけば、将来お互い経営者になった時は、また別の付き合い方ができるだろう。
同じ立場の同世代だけではなく、すでに経営者として活躍している“先輩後継ぎ”にもアプローチして、メンターになってもらうのもおすすめだ。家業の世界だけではなく、今の若い経営者たちの間のトレンドでもある。
「さまざまなタイプの経営者と対話を重ねながら、自分はどんな会社にしたいのか、目指すリーダー像はどのようなものかと、時間をかけて考えてみてください」