つまりは、デヴィ夫人の主張にメディアが乗せられているだけではないでしょうか。せめて告訴状を提出したのが警察なのか検察なのか、捜査機関を特定して初めて記事にすべきではないでしょうか。
私の現役時代の経験をお話ししますと、大体3月くらいに東京地検から連絡があり、電話をすると担当者からこのように説明されます。
「私は東京地検の〇〇です。異動の時期で、あなたには〇通の刑事訴訟が行われています(親切な人の場合は、誰から訴訟をされているかもそのとき教えてくれます)。書類を見ましたが、事件性は認められないし、捜査の必要もありません。このままこの書類は処理します(不起訴)ので、あなたの本籍地、あるいは生年月日を言ってください」
そして、本籍地や生年月日を教えると、それで終わりでした。
こんなやりとりが毎年ありました。ほとんどが政治家、次が芸能人。芸能人の場合はCM契約があるので、不倫を否定しておかないと契約違反になるからです。しかし、民事で提訴して証言者などに出てこられると嘘がバレるので、刑事だけという魂胆です。
私はデヴィ夫人に関する文春記事も読みましたが、申し訳ないですが、デヴィ夫人の告訴も(もし本当にしているとしても)この程度で処理されるでしょう。報道に携わっていれば、その程度のものだということは誰でもわかっていることだと思っていたのですが、「週刊誌vs有名人」という話題が世の中でかなり騒ぎになっているということで、事実関係をよく検証もせずに、こんな不完全な報道をするメディアが増えたのだと思います。私にはメディアが劣化したとしか思えません。
「回答期限1日」は
裁判的にも妥当な時間
次に、取材回答まで1日しかなかったという趣旨のデヴィ夫人の主張に対して、SNSで多くの賛同が寄せられていますが、これは過去の週刊誌の裁判や判決の結果から導き出された取材回答の猶予としては妥当な時間とみなされ、裁判的には十分なものなのです。
週刊誌への告訴が始まったのが20年ほど前からだということは、以前の記事で述べました。そのころ判決で、被告が中身では勝っているのに、取材期間が3時間しかなかったといった理由で、一部敗訴というケースが相次ぎました。今の裁判は和解が原則ですから、どこかで原告に花を持たせるため、記事の細かい部分で瑕疵をみつけて賠償金を言い渡し、主要部分は認めるという和解交渉を行うことが多いのです。
取材に与えた時間もそうですし、撮影場所が取材対象者の住むマンションの敷地内であれば「不法侵入をして撮影した」といった理由で不法行為を問います。それに対抗するため、週刊誌側が「必ず1日前には取材を申し込む」という方針に転じてから、判決で「取材期間が短い」という指摘を受けることはなくなりました。