抗がん剤を使って
老化した細胞を取り除く研究も

 近未来に向けた「抗老化」の研究も進んでいる。米メイヨークリニックの研究者は2011年、細胞の老化を抑えるのではなく、むしろ老化した細胞を取り除いてしまう「セノリティクス(老化細胞除去治療)」という全く新しい抗老化方法を提唱した。

 本来、規定の分裂回数を終えた細胞はそのままプログラム通り自死していくのだが(アポトーシス)、老化細胞は何らかの原因でアポトーシスに抵抗する力を得ている。それなら、人為的にアポトーシスを誘導しようというわけだ。

 その人為的手段とはなんと、白血病の治療に使われている抗がん剤と、タマネギに含まれているフラボノイドであるケルセチンの組み合わせだった。

 動物実験では、この2剤の投与により、自然老化マウスの老化細胞が除去されたほか、運動機能や心機能が改善。しかも、がんの発症も減り、寿命が延びたという画期的な結果が報告されている。

 加えて動脈硬化や肺線維症、糖尿病や関節炎、骨粗しょう症、認知症など、加齢に伴うさまざまな疾病でも改善効果が認められた。

 一連の研究から、高齢者を襲う複数の疾患の陰には「老化」という大きな変化が隠れていること、また、老化細胞をターゲットとする治療で、包括的に健康寿命を延ばせる可能性が示された。

 そして24年1月現在、抗がん剤+ケルセチン、あるいは遅れて見つかったフィセチン(こちらもフラボノイド)を使ったヒト対象の臨床試験が、複数実施されている。

 ターゲットとなる疾患は、慢性腎臓病やアルツハイマー型認知症、変形性関節症など、加齢に関連する疾患や、中には高齢女性の虚弱(フレイル)などというものもある。

 さすがに安全性への配慮から臨床試験は慎重に進められており、何らかの報告まではまだ時間がかかりそうだ。

 このほか、日本の研究者を中心に、老化を促進する分子を標的とした「抗老化ワクチン」の開発研究や、原点に戻って既存薬やフラボノイドの「抗老化作用」を探索する研究も進行中だ。

 21世紀もすでに4分の1が過ぎようとしている今、人間はついに「不老」を手に入れるのかもしれない。少なくとも研究者の多くは、その成功を疑ってはいない。

Key Visual by Kaoru Kurata