直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身やおすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
グローバル時代だからこそ
自国の歴史を学ぶ
「もはや海外に出て働く時代だから、日本の歴史を学んでも仕方がない」
グローバル化が進んだ現在、日本国内でもそう考える人が増えているようです。
しかし、海外の人と実際に交流してみると、みんな自分たちのルーツを大切にしていることに気づきます。
自国の歴史を大切にしているからこそ、独自のアイデンティティを活かしながら世界に価値を発揮していけるわけです。
なぜ武士はいなくなったのか
アナタは答えられますか?
私も海外の人と話をするときに、自然とお互いの国の歴史について意見交換をすることがあります。
以前、アメリカの留学生から「なぜ日本に武士はいなくなったの? てっきり今もいると思っていたんだけど……」と聞かれ、説明に往生した経験があります。
「じゃあ、いったい誰が武士を倒したの?」
「明治という政府を作った人たちだよ」
「その明治政府の人たちは、どこからやってきたの?」
「彼らも武士だったんだよ」
「えっ? 武士が武士を倒したってこと? 武士を倒した武士は、いつから武士をやめたの?」
明治維新を説明できますか?
そもそも明治維新は、世界でもかなり稀有な革命です。
海外の革命によくあるような時の権力者の命を奪うという形ではなく、強烈な自浄作用というか、自分で自分を食べて生まれ変わるような形で政治体制の変革がなされたわけです。
海外の人にはイメージがつきにくく、わかりやすく説明するのは至難の業です。
そう考えると、最低限の知識を学んでおかないと、海外で日本について教えることもできず、「自分の国のことも知らないの?」と軽蔑される可能性が高いです。
自国の歴史に疎すぎる?
日本ではよく、外国の人に対して「歴史認識の違い」という言葉を使うことがあります。
もちろん歴史を十分に知った上で指摘している人もいるのでしょうが、他国と比較して日本人が歴史に詳しいかというと、そんなことはありません。
むしろ日本人が自国の歴史に疎すぎるせいで、海外の人のほうが日本の歴史を知っているという逆転現象も起きているくらいです。
「世界三大古戦場」を知っていますか?
世界ではいろいろなことが「3大○○」という括りで紹介されていますが、「世界三大古戦場」には、関ヶ原の戦いの「関ヶ原」がランクインしています。
あれだけ狭い場所に約17万の軍勢が集まったのは世界史的に稀有な出来事であり、海外では軍関係者を中心に関ヶ原の戦いを学んでいる人が少なくないのです。
関ヶ原の戦いについてのアナタの考えは?
「関ヶ原の戦いは特異な戦いだと思うけれど、君はどう考えているの?」
海外の人からこんな質問をされたとしたら、あなたはどう答えるでしょうか。
「答えられないのは日本人として恥ずかしい」とまでは言いませんが、歴史小説をある程度読んでいれば、それなりに自説を主張できるはずです。
海外に出る人こそ、日本の歴史を学んでおくべきだと思います。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。