「エネルギー不足による病気で、代表的なのは『ミトコンドリア病』です。ATPの不足と活性酸素の酸化ダメージによって細胞死が起きて、脳卒中や心不全、歩行障害や聴力障害など、高齢者に起きる病気が子供に発症する難病です。1歳未満で発症することが多く、進行が速く緊急性が高い病気ですが、今まで治療薬はありませんでした。逆に言うと、ミトコンドリア病を治せる薬ができれば老化も調節できうると考えられるのです」(阿部教授)

 確かに、原因となるエネルギー不足が改善されれば、病気はもちろん、機能低下を防ぎ改善することも可能になるだろう。しかし、細胞の中にあるミトコンドリアの機能異常や、それによる病気の診断はどのように行われるのだろうか。

「ミトコンドリアは構成するパーツが多いため、その診断は非常に難しく、病院では皮膚や筋肉を手術で採取して調べる“痛い”組織検査・細胞検査が必要でした。最近になって血液検査のみでも可能になり、血中の『GDF15』というマーカーが高値だと『ミトコンドリアの状態が良くない』ということがわかってきました」(阿部教授)

 GDF15は加齢に伴い増加することが知られており、血中のGDF15濃度が高いほど総死亡リスクが高まるとされる。

植物ホルモンで人体に
エネルギーを与える「MA-5」

 阿部教授のプロジェクトでは、世界初のミトコンドリア病治療薬「MA-5」も開発している。

「私はもともと腎臓病の患者さんを診察しており、腎機能が低下した患者さんが貧血になる主な原因は、血液中に溜まる老廃物であるとわかりました。しかし、その老廃物に含まれていた物質『インドール酢酸』に、僅かながら貧血を改善しATPを増やす作用があることをたまたま見つけたのです。このインドール酢酸は植物の成長ホルモンなのですが、我々の体内では、食事に含まれるタンパク質由来のトリプトファンというアミノ酸から、腸内細菌によってインドール酢酸が作られています」(阿部教授)