人数、割合、数の多さこそが、社会全体の「価値観」を変えていく力を持つのです。その最たる例の一つが、「できちゃった婚」かもしれません。

 今から30年ほど前に、「できちゃった婚」という言葉が誕生し、その数が急増していきました。いわゆる「妊娠先行型結婚」(家族社会学者の永田夏来さんの命名)ですが、では、それまでは何と呼んでいたか。

 以前は名前も付かない圧倒的少数派として、世間から黙殺され、泣く泣く中絶する人も多かったはずです。結婚前の同棲や婚前旅行、婚前交渉などは言語道断、断行すれば「ふしだら」と烙印を押される社会では、周囲に事例がないからこそ隠すべきこと、忌むべきことだったのです。

 しかし、経済が不安定になり、「結婚」に踏み切る若者が減少していく中で、「できちゃった婚」は増えていきました。

 何かしらの後押しがないと「結婚」に踏み切れないカップルが増える中で、「妊娠」という事実を好意的に受け止めるようになったことは、少子化に悩む日本、特に結婚件数低下に悩むブライダル業界にとっては僥倖でした。

 その後、「できちゃった」というどこか失敗をほのめかす表現から、「授かり婚」という祝福感溢れる表現にブライダル業界が名称を変えたことで、妊娠先行型結婚は認知され、一般化していきます。

書影『パラサイト難婚社会』『パラサイト難婚社会』(朝日新書、朝日新聞出版)
山田昌弘 著

 少し古いですが、2004年の国の調査では、妊娠先行型結婚は第一子のうち26.7%を占めています。要するに、結婚の約4分の1ができちゃった婚であったと推定できます。

 沖縄県に限ると、約47%の第一子ができちゃった婚によるもので、これが沖縄県の出生率が日本一である理由であるとも言えるのです。

 数が増えることで、人々の意識が変わる。世代の常識が変わることで、世の中の行動が変わる。「普通の人生」や「生き方の正解」という定型マインドが崩れていく中で、「離婚=不幸せ」「結婚=幸せ」という常識も変わっていったということです。