金銭的な問題から、自然と目を向けた先に、性風俗の仕事があったという流れの人も多い。また、過去の苦労と比べたら、今いる場所がずっと明るいという人もいる。賃金も物価も先行きも不安定な今の時代、これらは決して一部の人に限った話とは言えない。

「だからこそ、もっと人の支援が入ると良いなと思います。性風俗の仕事は事実上、セーフティネットとして機能している面もありますが、基本的には稼げなくなったら切られる世界で、店が用意する寮も出勤して稼ぐ前提で入れます。心身の不調で出勤できなくなったり、出勤しても指名がつかない=稼げない状況になったら、すぐに退去を迫られます。風俗はあくまでも商売で、実際は慈善事業でも福祉でもありませんから」(坂爪さん)

 日本では、性風俗の仕事をする女性に対し、強いスティグマ(負の刻印)もある。売春防止法によって売春が犯罪とされていることも大きな理由の一つだろう。

 ただ売春防止法では、買売春そのものに対する罰則規定はなく、買春した人も売春した人もそれだけでは処罰はされない。罰則によって規制されているのは、勧誘(街頭での客引きなど)や、周旋(売春婦派遣の仲介・あっせんなど)、買売春を助長したり、そこから利益を得るような行為だけだ。

書影『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版、朝日新書)『ルポ 出稼ぎ日本人風俗嬢』(朝日新聞出版、朝日新書)
松岡かすみ 著

 また一口に性風俗と言えど、「本番類似行為」として多種多様な業態が合法化されているのも、日本ならではの特徴と言える。「ごっこ遊び」のような、設定ありきのプレイやサービス内容に「やってられない」「気持ち悪い」と海外でのセックスワークを選んだ女性もいる一方、「設定があることで助けられる、そのほうが働きやすい」という女性もいる。

 性風俗店の営業は、風俗営業法が取り締まっているが、この合法営業の中でも実際には売春は行われ、良くも悪くも見逃されている。つまり多くのセックスワーカーは、本来は売春が禁止されているにもかかわらず、密室内であるがゆえに、実際には行うことができるというグレーな立ち位置でサービスをしているわけだ。

 さらに風俗営業法はいわゆる公序良俗を守るための法律で、そこで働く人の権利を守るものではない。店の多くは、働く人と直接の雇用関係を結んでおらず、働く人は個人事業主として店から仕事を委託されている。そのため労働関連法で守られる人も限られている状況がある。