ビジネスベースに乗せれば
農業は持続可能なのか

 環境と調和の取れた食料システムの確立についても、「食料システムについては、食料の供給の各段階において環境に負荷を与える側面がある」とされ、「その負荷の低減が図られることにより、環境との調和が図られなければならない」とし、農業や食品製造業における環境への負荷の低減を促進させるための措置が規定されている。

 だが、我が国農業はそうした措置を講じなければならないほどに環境に負荷をかけているのだろうか?

 無論、農業は自然を利用し、自然にはたらきかけて生産活動を行うものであり、原野や山林を切り開いて農地を造成してきているのだから、全く環境負荷がないとまでは言わない。しかし、法律を改正してまで、環境負荷を低減させるための措置を新たに設ける必要があるとは到底思えない。何か別の意図があるのではないかと邪推したくなるが、少なくとも、この措置は農家に対して新たな負荷をかけるのは間違いないだろう。

 農業の持続的な発展については、総論としてはもっともであり、こちらも今更ではあるが、施策の方向性として打ち出すこと自体はいいことである。

 しかし、各論では、農業経営以外の多様な農業者による農地の確保、農業法人の経営基盤の強化といったように、農業を国の基(もとい)、インフラとして位置付け、戦略物資としての食料を生産する農業を持続可能にするという経済安全保障、食料安全保障の観点とは程遠い。というより真逆の、農業をよりビジネスベースに乗せれば持続可能になるという発想に基づくものばかりである。

 ビジネスベースに乗せるということは事業者の収益が最優先にされることになるので、国民に必要な食料の確保や、農業生産者の確保・育成、生産技術の向上や継承、さらには種の保護や改良、低廉な費用での提供といった、食料安全保障の確保に不可欠な機能、役割が蔑ろにされる可能性がある。

 本気で持続可能にしたいというのであれば、欧米諸国と同様に、国が各農家に補助金を交付したり、国が買い上げることによって価格を保証したり、海外から輸入される食料に対する関税を増やしたりすべきであろう。裏を返せば、スローガンとして食料安全保障を掲げてはいるものの、本気で考えていないということではないか。

 農村における地域社会の維持については、「地域社会が維持されるよう農村の振興が図られなければならない」とうたっておきながら、具体的な措置として挙げられているのは、農地の保全に資する共同活動の促進、地域の資源を活用した事業活動の促進、農村への滞在機会を提供する事業活動(いわゆる農泊)の促進等である。

 要は自分たちで共同活動を推進せよ、地域の資源を活用して事業活動をして自分たちで稼げと、地域社会の維持を農村の自己責任として押し付けている。裏を返せば、国として農村の地域社会を維持する責任を放棄するに等しい。食料の生産の現場である農村を事実上見捨てるような措置を規定して、何が食料安全保障だと言いたくなる。

 指摘しようと思えばまだまだ同法案の問題点はたくさんあるが、法案をしっかり読んで、一つ一つ指摘できる野党議員はどの程度いるのだろうか?少なくともこうした大枠の問題点ぐらいは指摘し、反対の声を上げてほしいものであるが。