中間駅の周辺開発において
見えにくいJR東海の役割
まるで静岡県のJR東海に対する「異議申し立て」が、問題の解決ではなく2027年の開業阻止だけが目的だったかのように受け取れる発言だが、表現に問題の多い知事のことなので、安易な解釈をしても不毛なだけである。すでに静岡県はJR東海と協議が必要な「47項目」を整理し、国土交通省のモニタリング会議という議論の場も動き出しており、川勝氏が去っても、静岡県の動きは大きく変わらない。
JR東海としても、川勝氏の辞任で一気呵成(かせい)に事が進むとは思っていないだろう。県民の間にも川勝氏への失望が広がっていたのは確かだが、新知事がリニア推進派になる保証などどこにもないのである。結局、リニア計画は地元と丁寧に対話を重ね、理解を得なければ前に進まない。これは今に始まった話ではなく、昭和期に建設された路線にも当てはまる大原則だ。
しかし、JR東海の姿勢はこれまで、計画を主導した故葛西敬之名誉会長に象徴されるように「天下国家」を論じることばかりが目立っていた。JR東海は東海道新幹線による東名阪輸送を自らの使命と位置づけており、リニアは東海道新幹線をバックアップする二重系であるとともに、三大都市圏をひとつにつなぐ「スーパーメガリージョン構想」を実現する壮大な構想だ。
整備新幹線の仕組みによらない自己資金での建設としてスタートしながら、国の財政投融資から3兆円の融資を受け、名実ともに「国策」として事業を進めてきたが、結果として地域の声が軽んじられていた面は否めない。JR東海だけでなく、マスコミやSNS問わず、静岡県に批判的な論者が「国益に反する」「国策を妨害」としばしば言うのは、その構図を象徴している。
そんな地域にとって、数少ないリニアの恩恵のひとつが、品川、名古屋以外の各県に一つ設置される「中間駅」の設置だ。各駅停車タイプのみの停車、おおむね1時間に1本程度の運行が想定されているが、リニアの圧倒的なスピードにより、例えば甲府付近の「山梨県駅(仮称)」は品川まで25分程度、飯田付近の「長野県駅(仮称)」は品川まで45分、名古屋まで25分で結ぶ構想だ。
所要時間だけ見れば、これらの地域から東京、名古屋都心に通勤すら可能であり、地域の位置づけが劇的に変わるとの期待もある。だがそのようなまちづくりが進まず、東名阪速達輸送の「おこぼれ」として各駅停車が止まるだけの駅になってしまえば、地域にとって素通りも同然だ。
JR東海は中間駅のまちづくりにどのように参加、協力するのか。その一つの答えになるかもしれないのが3月25日、JR横浜線・京王相模原線橋本駅前に建設中の神奈川県駅工事現場の一角にオープンした「FUN+TECH LABO(ファンタステックラボ)」だ。
これは「さがみロボット産業特区」を設置するなどイノベーション創出に力を入れる相模原市が、市内外の企業や研究機関など、さまざまな団体と交流を図り、企業誘致や起業支援、スタートアップ企業の創出・育成を推進することを目的とした「イノベーション創出促進拠点運営事業」の一環として推進するもの。運営委託事業に応募したJR東海と連携協定を締結し、具体化の第一歩として設置したものだ。
同日に行われた開所式でJR東海事業推進本部の谷津剛也副本部長は「ファンタステックラボはさまざまな技術や知見をかけ合わせて、生活のワクワク感につながるイノベーションを創出する拠点」とした上で、「そのようなラボをリニア神奈川県駅の周辺に設置することで、リニア駅周辺地域の魅力向上、沿線都市の価値向上に貢献していきたい」とあいさつした。
また、本村賢太郎相模原市長は「神奈川県と連携しながら、降りたくなる駅、訪れたくなる街を創造して、ロボット産業特区を打ち出したまちづくりをこれから進めていきたい」と期待を寄せた。