不動産価格の上昇はいつ一服するのか

 当面、日銀の緩和策継続や海外資金の流入の影響により、わが国全体で地価は上昇基調を続けることだろう。物価上昇率は2%を上回って推移する可能性は高く、投資家にとって、実物資産に資金を振り向ける意義は高まる。円高傾向に転換することも考えにくいことも国内の不動産価格を下支えするはずだ。

 ただ、冷静に考えると、永久に不動産価格の上昇が続くことは考えにくい。世界の不動産市況を住宅と商業用に分けると、米国や欧州、中国では商業用不動産の価値が下落した。中国では不動産バブル崩壊により住宅市況の下落も鮮明である。

 翻ってわが国の地価上昇は、世界経済に周回遅れで上昇している感がある。当面、この勢いは続くだろうが、かといって、それは未来永劫ということではないだろう。世界的な物価の高止まりリスク、日銀の金融政策の正常化に向けた動きなどを警戒し、わが国の不動産を手放す主要投資家も出始めている。

 一例として、シンガポールの政府系ファンドのGICは、汐留シティセンター(東京都港区)や福岡市のホテル売却を検討中と報じられた。中国の不動産市況の悪化や米国の金利高止まり懸念が背景にあるだろう。

 それに伴い、いずれマンション建設や商業用施設の開発・再開発は鈍化し、地価上昇の勢いは弱まるだろう。物価が想定以上に上昇し、日銀が追加の利上げを検討する状況になると、売却を急ぐ投資家は増え、不動産価格の下振れリスクは上昇する。

 公示地価の上昇率が33年ぶりだったことは、わが国経済が長期停滞を脱するために重要ではあることは言をまたない。しかし、それだけで、日本経済が本格的な回復に向かうと論じるのは早計だ。4月8日、物価の変動を反映した2月の「実質賃金」が、前年同月比1.3%減で23カ月連続減少したと明らかになった。リーマンショック以来、過去最長の記録を更新している。何よりも、わが国経済が真の実力を取り戻すことが先決である。