仏教伝来以来1500年もの間、日本人が造り続けてきた仏像。しかし、元々そんなに興味がない人も、仏像ファンを名乗る人も、実は「どれも同じに見えてよくわからない」という人は多いのではないだろうか。仏像の違いがわかるようになる基本的な知識から、深く鑑賞するためのポイントまで、仏像研究家が指南する。(取材・文/フリーライター 増澤曜子)
写経ならぬ「写仏」も人気
2009年に社会現象になった立役者は?
イラストレーターで文筆家の田中ひろみさんは、仏像がテーマの本を30冊以上、上梓している仏像研究家でもある。
「1冊目を出したのは2007年でしたが、当時はまだ仏像人気が今ほどブレークする前で、『仏像が好き』と話すと、宗教的なものにはまっているのかとやや警戒されたり、『変わっている人』と思われたりしましたね」
それが、2009年の「国宝 阿修羅展」(東京国立博物館)で一変した。雑誌の美少年コンテストに「阿修羅賞」が特設されたり、みうらじゅんが会長の「阿修羅ファンクラブ」が結成されるなど、女性や若者をターゲットとしたプロモーションの効果もあり、約95万人が来場する“社会現象”となった。
「阿修羅展以降、実は仏像が好きなんです、という人が増えました。私はカルチャーセンターで仏像講座の講師もしていますが、中高年の男性は特に、ご自分が訪れた寺院や拝観した仏像について熱く語る方が多いですね」
写経ならぬ写仏(しゃぶつ)も人気だという。写仏は文字通り、仏様の絵を写すこと。お経の文字を書き写す写経と同じように、古くから学僧が行ってきたものだ。
「今は、下絵を筆ペンや鉛筆でなぞるタイプの本がたくさん出ています。写仏をすると集中して、その後気持ちや頭がすっきりするという方が多いです」
実際に仏像を見るときに、写仏をしてからのほうが細部までじっくり鑑賞できる。「仏像の魅力は、知れば知るほど世界が広がること」だと田中さんは言う。
「最初は、どの仏像も同じに見えますが、たくさん拝観していると違いがわかってきます。如来と菩薩の違いだとか、時代の違いだとか、装飾や台座の種類とか。拝観すればするほど違いがわかり、興味が広がっていきます」
そこで、“違いがわかるようになる”ために、知っておきたい3つのポイントを田中さんに教えてもらった。豊かに広がる仏像鑑賞の世界への第1歩である。