国宝指定の仏像の半数以上は奈良にある
手始めに巡りたい3施設とは?
細部の特徴に気がつくと、その仏像がぐっと身近に感じられる。田中さんが必ずじっくりと見るのが仏像の顔である。
「お顔を右から左から、下から上からとあらゆる方向から拝顔します。人間の顔は左右で異なることが多いのですが、仏像のお顔は、ほとんどがシンメトリー(左右対称)です」
また、悟ったお釈迦様である如来には、共通の特徴がある。パンチパーマ風の髪の毛は螺髪(らはつ)と呼ばれ、1本1本が右に巻いている。髪の色は「毛孔生青色相」(もうくしょうじょうしきそう)といわれ青く、仏像では紺青に着色される。額にある丸いものは「白毫」(びゃくごう)で長さ約4.5メートルの1本の白い毛が巻かれたもの。大きな福耳には、王子時代に着けていたピアスの穴がある。
「腕は救いの手が遠くまで伸ばせるように長く、立ったときに膝まで届きます。手のひらには大勢を救えるように水かきがあることが多いですね」
如来像を拝むときに、手に水かきがあるかないか確認してみよう。その仏像の特徴がひとつ分かり、その仏像のことをひとつ理解し、ひとつ鑑賞したことになる。
また、前述のように「たくさん見る」こともお勧めだ。数を見ているうちに違いが分かってくる。
「現在、国宝に指定されている仏像は140体(京都・三十三間堂[蓮華王院]の千手観音は1001体で1体と数える)ありますが、その半数以上は奈良県にあります。さらにその大多数は、東大寺、興福寺、奈良国立博物館に収蔵されています。まずこの3施設を巡るのも手です」
たくさん見ているうちに、国宝であってもなくても、姿を見るとほっとする、何度も拝観したくなる仏像が見つかるだろう。
「同じ仏像でも、見るときの気持ちによって見え方が変わります。うれしいときは『よかったね』、悲しいときは『大丈夫だよ』と言っていただいているような『妄想』ができます。それから、季節によっても見え方が変わります」
見る人の心を映し出す仏像と向かい合うことで、一瞬日常生活から離れ安らぎの境地に遊ぶことができるかもしれない。