もともと就職率のよさを売り物にする首都圏の私大などでは、就活課の職員が、学生のESの添削や面接の練習を徹底的に手伝うため、採用側にとっては「何がこの学生の素顔なのか」がわからず、アタマをかかえる事態になっています。それは、コロナ禍前から変わりません。
就活ガイドのような参考書では、たいてい(1)リーダーシップがある、(2)性格は明るい、(3)協調性がある、という風に書けと指導がされています。これ自体、多様な人材を求める企業には困った「法則」で、みんながみんな明るくても困るし、誰もがリーダーシップがあれば会社はバラバラになってしまいます。
しかし、就職課も無理矢理学生に厚化粧を施して、その法則に合う履歴を作ってきます。就活に正解がないのは就職課の職員だってわかっているはずですが、職員は学生の長所や短所をすぐには判断できません。結果、「自分はネクラで、友人などほとんどいない」などと個性的なことをESに書く学生はいません。
動画ESは何のため?
実は人事担当者もよくわからない
私は文春という小さな会社で、しかも週刊誌畑にいたので、若いときから就活面接やESの採点には関わってきました。出版局時代に『就活ってなんだ』(森健著)という有名企業の人事担当者の本音を聞いた本を出版したりしたので、大会社の採用担当の考え方も私と変わらないと気づき、ESの添削にはそれなりに自信があったのです。
しかし大学に来て、最初のつまずきが「動画ES」でした。学生はZ世代ですから、動画撮影には慣れています。しかし、企業の狙いが全然わかりません。何社かの人事担当者に「なぜ動画なのか」と聞いたところ、「紙のESだと添削され過ぎているので、動画なら素の学生がわかる」「何か新しいことをやらないと、いつも同じ言葉ばかり読むことになる」「動画なら、複数の人事部員でチェックできる」といった答えが返ってきたものの、本当のところは自分たちも試行錯誤しているだけというのが本音のようです。
他にも、企業の未来戦略を見据えた就活の大改革があります。外国人社員が多くなったにもかかわらず、日本企業の採用は今でも新卒一括採用です。これは日本だけのシステムです。今後、一括採用がなくなり(経団連はその方針です)、通年で個別に採用面接を行うという世の中になった場合の練習として、企業側も「面接=テスト」ではなく「面談=インタビュー」で候補者を吟味する必要が出てきたという面もあるようです。