直木賞作家・今村翔吾初のビジネス書『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)では、教養という視点から歴史小説について語っている。小学5年生で歴史小説と出会い、ひたすら歴史小説を読み込む青春時代を送ってきた著者は、20代までダンス・インストラクターとして活動。30歳のときに一念発起して、埋蔵文化財の発掘調査員をしながら歴史小説家を目指したという異色の作家が、“歴史小説マニア”の視点から、歴史小説という文芸ジャンルについて掘り下げるだけでなく、小説から得られる教養の中身おすすめの作品まで、さまざまな角度から縦横無尽に語り尽くす。
※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。

【直木賞作家が教える】多額の借金をしてまで公共事業に私費を投じた「1人の政治家」Photo: Adobe Stock

政治家の質が
大きく変わった

テレビに出演すると、日本の政治についてコメントを求められる機会がたびたびあります。

正直なところ政治については門外漢ですし、日本の政治家の頑張りが足りないなどと偉そうに語るつもりもありません。

ただ、昔と今で政治家の質が大きく変わっているのは感じています。

昔と今の政治家
決定的な違い

決定的な違いは、腹の括り方にあります。

明治から戦前の時代までは、現代と比べて暗殺事件の発生件数も多く、政治家にはいつ死んでもおかしくないという緊張感がありました。

緊張感を抱きつつ、たとえ非難をされようが、国民を生かすためにすべきことをやり抜いていました。

公共事業に私費を
投じた大久保利通

大久保利通は、初代の内務卿(現代でいうと総理大臣)でしたが、公共事業に私費を投じ、多額の借金を作っていたという逸話があります。

しかも、債権者たちは大久保の借金の使い道を知っていたので、死後は遺族に対して返済を求めなかったといいます。

今も国民のために仕事をしている人がいるとは思いますが、戦後から大きく政治のあり方が変わり、政治とカネのような問題が頻出するようになったのは事実でしょう。

領収書は不要
残金返却も不要

私が現役の政治家にぶつけたいのは、「それ以上お金を得てどうするつもりなのか」という疑問です。

今の政治家は、国民の平均所得と比較すれば多額の給与にあたる歳費以外に、月100万円も支給される「調査研究広報滞在費」(旧・文書通信交通滞在費)などの経費も支給されています。

しかも、民間ではあたり前の「領収書」は不要ですし、「残金の返却も不要」というルールになっています。

お金を増やす?
歴史に名を残す?

すでにお金持ちでありながら、これ以上お金を増やすことと歴史に名を残すことのどちらを目指しているのか、どうして後者に興味を持たないのかと思うのです。

今後、本当に明治の元勲と同じくらいの覚悟で政治に取り組む人が出てきたら、日本の政治は大きく変わっていくはずです。

それを期待する反面、もはや無理なのではと冷静に捉えている自分もいます。

日本はまだ本気で
追い詰められていない?

ただ、一つだけ希望があるとすれば、これまで日本がピンチに陥ったときには、救世主となる人材がいきなり登場してきたということです。

日本を一体の生き物だとすれば、これまで本当に生存本能が脅かされたときには、特別な免疫機能を発揮して病巣や傷を治療して回復させるような現象が何度となく起
きている
のです。

そういう特別な免疫力が日本に残っていたら、という希望は持っています。今の日本に免疫力が働いているようには見えませんが、もしかすると日本はまだ本気で追い詰められていないのかもしれません。

※本稿は、『教養としての歴史小説』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。