「男性が育児休暇を取得したり、保育園のお迎えに行ったりすると、『なんで奥さんにやってもらわないの』とか『あいつはもうキャリアを降りたんだよね』と言われてしまう。「自分の事情を理解しようとしてくれない」と会社に居づらくなった男性社員の方が転職を検討され、ご相談に来られるケースもあります」
上原さんがアメリカに駐在していた知人から聞いた話では、現地では男性が保育園の送り迎えをするのは当たり前だという。こうした“文化”があれば、育児負担が女性に偏ることもなければ、男性が育児に参加を妨げられることもない。
一方、日本では男性が長時間勤務をして、女性は家で子供を育てるという労働観や家族観が前提となっている組織は少なくない。厚生労働省の調査によると時短勤務を「利用している」または「以前は利用していた」の合計が女性で51.2%なのに対して、男性はわずか7.6%。時短勤務を取得するのは、ほとんどが女性だ。
さらに上原さんは、経営層がこの問題に取り組む際の姿勢が、成否を分けると説明する。
「子育て社員のサポートをトップが経営課題として捉えられないと、人事のタスクとして「女性管理職比率を上げる」「育休復帰比率を高める」ことだけが目標となってしまい、子育てをしている女性のための施策や制度が多く生まれてしまいます。経営のあり方として、どんな事情を抱えた社員でも活躍できるあり方を、経営としてどう考えるかを根本から見直し、コミットする必要があると考えています」
子育て社員を含むすべての従業員がそれぞれの理由で休める制度を整えることで「子育ての特権化」を防ぐ。そして、リーダーが率先垂範して制度を利用することなどを通して、組織の文化として定着させる。”子持ち様”をめぐる対立の解決策が見えてきた。
働きやすく人が集まる会社と、働きづらくて人が辞めていく会社……人手不足のこの国では大きく明暗を分けそうだ。