なぜ「公正証書遺言」ではなく
「自筆証書遺言」だったのか
野崎氏ほどの資産家の場合、自身の死後の財産のゆくえには思慮を重ねることが多く、遺言書を作る場合は「公正証書遺言」を活用したり、トラブルを抑止できる弁護士が遺言書を預かったりすることが予想される。
しかし、今回はメモ書きのような自筆証書遺言だったこともあり、筆跡鑑定の争いにまで発展している。野崎氏の「遺言書」が、このようなメモ書きで無ければ、ここまで大きなトラブルには発展しなかったのではないだろうか。
自筆証書遺言は誰でもどこでも作ることができる、大変手軽なものである。しかし、遺言内容があいまいでトラブルになったり、無効や偽造と思われたりするケースも多く、トラブルの温床となっている。検認を受けても遺言内容の有効性を証明するものではないため、今回のように「遺言無効確認訴訟」に発展するケースも少なくない。
特に財産が多い資産家の場合、親族間のトラブルになりやすいため、士業のアドバイスを受けた上で、できる限り紛争の種を摘み取った状態の「公正証書遺言」の作成が望ましいだろう。
では、自筆遺言書のデジタル化が進んだら、トラブルを抑制する効果はあるのだろうか。
法務省が進める
遺言書のデジタル化
自筆証書遺言は現在、遺言者本人が遺言書の全文はもちろん、作成した日付や氏名までを自筆で書く必要がある。財産目録はパソコンで作ることができるものの、自筆証書遺言は「自筆」が必須だ。その上、紙で作る必要もある。
しかし、自筆証書遺言は今後、デジタル化する動きがある。法務省は現在、デジタル技術を使った遺言書の作成と保管について法整備を進めており、今後進展していくものと考えられる。