百度の前はファーウェイ、
その前は……

 ネット炎上は、もちろん中国でも珍しいことではない。だが、今回の炎上にはさまざまな現代中国らしい「社会事情」が見え隠れして興味深い。

 まず、キョ静さんはそのTikTokアカウントのプロフィールに「百度副総裁、広報一号、元ファーウェイ広報担当副総裁」と書き込んでいた。百度にファーウェイ……中国を代表する大企業が並ぶ、なんとも華やかな職歴である。

 さらにネットメディアが突き止めた彼女の経歴は、西安の大学で英語を学んだ後、外交員育成機関の北京外交学院の英語専門課程に進み、そこで修士課程を終えてから中国国有通信社「新華社」に入職。そこで国内部や中央(つまり、政府担当)ニュースセンターで記者を務め、8年後に国内指折りの精密機器メーカーであるファーウェイに「公共および政府事務部副総裁、中国メディア事務部長」として転職している。

 ファーウェイで担当していた公共及び政府事務とはつまり、新華社で政府周りだった経歴が買われ、その人脈を見込まれてのことであろう。そして6年後の2021年には百度に副総裁として入社、グループ公衆コミュニケーションの責任者となり、「百度広報一号」と名乗るようになったわけだ。

 こうやって見ると、あの彼女の強気な物言いは、政府機関との人脈(コネ)を使って大手企業でトップレベルの席を手に入れることができた自信によって裏打ちされたものではなかったか。実際、あるメディア関係者は「ファーウェイだって百度だって、その名前を出せば、中国国内では泣く子も黙る大企業だ。つまり、広報責任者というが、実際には中国独特の権力舞台しか知らない、庶民感覚の分からない広報担当者だったのだろう」と分析していた。

 もちろん、彼女はただそれにあぐらをかいていたわけではないのかもしれない。問題になった動画の中でも、新型コロナウイルスの感染拡大で国内の移動が容易ではなかった時期に、「いったん北京を離れれば、隔離、隔離で50日間は戻ってこられなかったから、逆にその時間を有効に、そして合理的に使って出張スケジュールを組んだ」と、「武勇伝」らしきものも披露していた。

 だが、長年、中国の国有メディアや大手企業を代表して政府と接触する仕事をしてきた彼女は、そんな中国社会の「王道」や「勝ち組」が社会に対して行使できる圧倒的な力が、逆に庶民の感情を逆撫でするという意識がおろそかだったようだ。彼女にとって向き合うべき相手は「強大な政府」であり、「こまごまとした家庭の事情を持ち込む」庶民ではなかったのだろう。権力者のご都合主義にも似たその物言いは、人々の反感を買った。

 さらにもう一つ、騒ぎに油を注いだ要素があった。