百度は、
他の中国大手IT企業とちょっと違う

 それは、彼女が「百度」の幹部だったという点である。

 日本ではあまり知られていないが、実は中国には、「アンチ百度」の立場をとる人たちがかなりの割合で存在する。筆者の長年観察において、「アンチ・アリババ」「アンチ・テンセント」な人ももちろん存在するが、「アンチ百度」に比べてずっと少ない。さらに「アンチ百度」ぶりは、特にIT業界関係者において顕著なのだ。

 不思議だと思うかもしれない。というのも、百度もアリババもテンセントも、20世紀末に生まれ、2000年代初めの10年間の中国ITブームに乗ってそれぞれ成長を遂げ、世界的にその名を知られるようになった中国IT企業だ。ご存じのようにアリババはコマース分野(創業者のジャック・マーは「中国の中小企業に世界的販路を与えるため」と主張し続けている)で、そしてテンセントは主にゲームなどの娯楽分野で、中国の経済成長を支え、庶民たちから大きな支持を得てきた。

 一方、百度は、李彦宏CEOが米国に留学後、現地の金融、IT企業での勤務を経験してから帰国して興した企業である。だが、そのトップ事業である検索エンジンは米国の「グーグル」のパクリから始まったといわれている。そしてさらにそのローンチの際、当時の中国人ITエンジニア(とその卵)たちは、彼らが使い慣れたグーグルがさまざまな形で妨害を受け、アクセスが困難になり、不利な立場に追いやられるのを体験した。そこから彼らの心には、「百度は、国の不平等なバックアップを受けて大きくなった」というイメージが焼き付いた。

 それは、当時のITエンジニアたちがインターネット時代に期待した「自由な情報流通」「平等な情報取得」に反する行為だった。このため、百度(Baidu)がアリババ(Alibaba)やテンセント(Tencent)と共に三大IT企業「BAT」と呼ばれるようになっても、庶民に支持されて大きくなった(=「我々が育てた」)企業とは一線を画すのだと、多くのIT従業者、特に2000年代にのし上がってきた、今や業界トップを担う人たちの間では今も見なされている。

 さらに百度は、自社の事業の中心を個人消費サービスよりも大型産業テクノロジー事業へ置くようになり、政府との関係はますます顕著に、また強固なものになった。ネット実名制にまっ先に対応した結果、「政府に不都合な情報」は検索結果には表れない。このため、中国国内では、通常のアクセス方法ではほぼ百度の検索しか使えなくなっているにもかかわらず、多くの中国人開発者は「壁越え」手段を講じてグーグルを利用している。そうでなければ、自身が作った製品のチェックすらできないからだ。それはグーグルが百度のように「人為的に情報が顕著な操作を受けていない」と認識し、選択しているからだといえるだろう。