という話を聞くと、「いやいや、発言を切り取って捻じ曲げるマスゴミが問題であって、上川さんは悪くないだろ」というお叱りをいただくかもしれない。

 ただ、これも自民党の「パブリックスピーキング研修会」で語らせていただいたことだが、マスコミというのは取材して得た情報を面白おかしくしく切り取ることが仕事だ。

 今回の上川発言にもさまざまな意見が飛び交っているように、物事にはさまざまな見方がある。「真実はいつも一つだ」などと名探偵コナンみたいなことを言う人もいるが、実は世界はもっと複雑で「こうも言えるし、こういう見方もある」というケースで溢れている。そんな複雑な世界を「わかりやすく、面白おかしく切り取る」ということを、マスコミで働く人々は新人時代から叩き込まれているのだ。

自民党から文書が流出
思わぬとばっちりを受けた過去

 わかりやすい例をお示ししよう。なぜ今回、「自民党失言防止マニュアル」の元ネタは自分の講義資料だと明かしたのかというと、「マニュアルを作った人物」という誤解を解きたいからだ。

「マニュアル」の存在が報道をされたとき、自民党からこの文書がマスコミに流出し、そこに私の名前が記載されていたことで、さまざま媒体から問い合わせがあった。あるお昼の情報番組などでは「スタジオに来て解説してもらえませんか」なんて依頼もあった。それらを全て断っていると、今度はメディアの世界で「自民党のマニュアルを作っている人間」などと噂が流れるようになり、取引先企業でも「自民党の汚れ仕事をしているような人間を使うのか」と問題視されて、仕事を失ったこともある。

「自民党失言対策マニュアル」報道によってえらい不利益を被ったワケだが、先ほども申し上げたように、この世に「自民党失言対策マニュアル」などというものは存在しない。私は会社や自治体から呼ばれて講演をするのと同じように、自民党本部に呼ばれてそれを話しただけだ。

 事実、マスコミが「失言対策マニュアルの現物」として写真や映像で紹介した文書の一番下には、《パブリック・スピーキング研修(講師・ノンフィクションライター窪田順生)のポイントをまとめたものです》としっかりと明記されている。つまり、この文書を手にした人は「自民党が招いた外部講師の研修資料」というのが一目瞭然なのだ。