私なら、最年少三冠王をとった村上宗隆選手の不調をデータで分析する記事を展開するでしょう。WBCで、大谷選手が片膝をつきながら観客席上段まで運んだ本塁打に仰天し、その真似をしようとするうちに不調に陥り、いまだにこの若い長距離砲は本調子ではありません。本人自身、「大谷さんの打球を見て、やり方を変えないといけないと思い、練習方法を変えたために不調になった」と言っています。
それなら、データで徹底的に分析してみましょう。そもそもこの数年で大きくなった大谷選手と、まだ22歳で身体は大きいもののプロの筋肉トレーニング歴の少ない村上選手を比べたら、その筋力の差、打球速度の差、スイングスピードの差をはじめ、打球方向、練習方法、投手のボールの内角・外角・高低の差や、速球・変化球の打率の差など、分析できることはいくらでもあります。
また、大谷がこの数年続けてきた練習方法の改善やトレーニング機器の改善も、紹介するに足るテーマです。読者はこれを読めば、村上の打席により興味を持つことができるはずです。
大谷と村上、佐々木はどこが違うのか
スポーツ紙の生き残りの道は記録と分析
興味の対象は、村上に限りません。大谷と同じ岩手県出身でメジャーリーグを目指す佐々木朗希選手は、同じ160キロ以上の速球を持ちながら、まだ大谷の日本時代の活躍にも及ばない成績です。メジャーを目指す以上、大谷の現在と当時における体力や技術力の差、これからメジャーに行くために必要なパワーと技術を身に付けるには何年かかるか、といったことをデータで解析すれば、「来年にもメジャー」などという無責任な大人たちの理屈は粉砕できるでしょう。
まだまだスポーツ紙に言いたいことはありますが、最後に一言。記者が投票する賞はメジャー同様、記名投票にするべきです(日本は匿名)。記名でないため不勉強な投票が多く、守備範囲が衰えている菊地亮介選手(広島カ―プ二塁手)が永年守備の賞を獲り続けたり、戦力外になった選手に1票入ったりというように、スポーツ紙記者が尊敬されないイベントになってしまっています。今や「国宝」級といわれる大谷ブームに乗って、スポーツ紙の大逆転を信じたいと思います。
(木俣正剛:元週刊文春・月刊文芸春秋編集長)