日本のスポーツ紙は「大本営発表」
スター中心の報道ばかり

 実は子どものころ、私は日刊スポーツが好きでした。野球少年(ただし、見るだけのオタク)だった私には、二軍選手の成績も気になりました。しかし、当時のスポーツ紙といえば「ON時代」。王と長嶋さえ打っていれば、それで売れました。作家の野坂昭如氏が「スポーツ紙って戦前の新聞みたいだよ。大きな文字で『王、長嶋本塁打』とあるので、巨人が勝ったのかなあと思うと、小さな見出しで、巨人は惜敗……」。

 野坂氏は、「大本営発表の戦争記事と同じで、米空母何隻撃沈、戦艦何席撃破と大見出しが出ていて、片隅に『日本軍は同島で玉砕』と小さく書いて国民を騙している」と笑っていましたが、その時代の日刊スポーツは「記録の日刊」として、パ・リークの不人気チームの試合も「日刊式テーブル」というスコアポートのような紙面で細かく試合経過を報道し、個人成績もわかりました。

 それに関東だけですが、二軍の試合の選手成績(他のスポーツ紙は試合結果のみ)も掲載しています。「野球小僧」の私は、わざわざ関東から日刊スポーツを取り寄せ、二軍成績を細かくチェックしながら、明日のスター選手の将来を見るのが楽しみでした。

 野球は記録のスポーツです。そして今、このデータが凄まじく細かく記録されています。しかし、日本のスポーツ紙は相変わらずのスター中心。たとえば、「中田翔、決勝弾!」のような話題が一面にきます(今どき、中田が本塁打を打って誰が新聞を買うのでしょうか)。「日刊式テーブル」は今やどこの新聞も採用していますが、スポーツ紙を読まなくても、チームのHPには細かい試合経過や個人成績が、そしてネットのスポーツナビではヒーローインタビューのビデオまでもが出ています。今さら、毎日同じデータやコメントを見るためにカネを使う人がいるのでしょうか。

 米国はエンゼルスが犠打や盗塁に意味を与えた「スモールベースボール」理論で優勝して以来、データ主義を重視し、データで野球を変えるチーム作りを行ってきました。今、日本の野球界に理論的な説明ができるデータと人材を集められるのは、スポーツ紙くらいなのです。

 もうネットでも見られるヒーローインタビューや、古くさい野球理論を語る不勉強な昔の有名選手による解説などやめて、徹底的なセイバーメトリックス(野球を数字でデータ分析し、統計学的根拠を加えて選手の評価・戦略などを考える)と言われる新指標などを使った分析を展開できないでしょうか。