「豆腐」は「豆富」
「ごみ箱」は「護美箱」

 少なからず、肯定されてきた側面も強い、「人財」という言葉。個人的には、「材」ではなく、あえて「財」を採用した人々の心理についても知りたいところです。飯間さんは、「豆富」を引き合いに、自らの解釈を語りました。

「豆富」とは、私たちにもなじみ深い「豆腐」を書き換えた造語です。

 飯間さんによると、1960年代に島根県豆富商工組合(当時)が使い始めて以降、全国に広まりました。文字通り、験担ぎの意味があるといいます。

「業界関係者は、朝昼晩と豆腐を扱っています。四六時中『腐』という字を見るうち、『我々が作っているものは、別に腐っていない』『せっかく誇りを持って仕事をしているのに、縁起が悪い』などと感じるようになったのではないでしょうか」

「消費者は、『豆腐』と書かれている商品も、もちろん買うでしょう。でも作る方からすれば、『豆富』の方が売れ行きが良くなる、と思えたのかもしれません。ある言葉に日々接していると、『この表記のままでいいのか』と疑いを持つようになるものです」

 似た例に、「ごみ箱」の当て字である「護美箱」があります。毎日ごみを処理する人が、通行人や観光客のマナー向上や、周囲の景色との調和を図り、「美を護る箱」と書き換えたのではないか――。飯間さんは、そう推測しているといいます。

 一連の表現の系譜に、「人財」も位置づけることができそうです。飯間さんは「人材」の起源に触れつつ、普及の過程にまつわる自説を披露してくれました。参考情報として挙げたのが、『日本国語大辞典 第二版』(小学館)の記述です。

 語釈(語句の意味の解釈)を見ると、「人材」は「人才」とも表記する、との説明がありました。8世紀の書物に「人柄としての才能」という意味で登場する他、福沢諭吉が著書で「才知の優れた人物」を指して「人才」を使った、とも書かれています。

 一方で「人材」の「材」は資材、建材などにも用いられます。この点を踏まえ、飯間さんは次のように推し量りました。