「『人財』も同じです。私自身が、初めて目にして感心したように、支持者は一定数存在します。時に嫌がられつつも使われ続ける、その生命力に、ある種敬服する気持ちがあります。間違いなく、『ヒット商品』と言えるでしょう」

「人財」などの当て字は
日本人だけが楽しめる特権

 その上で飯間さんは、「人財」を含む当て字文化は、日本語話者の特権であるとも話しました。

「『頑張る』を『顔晴る』と表記する場合があります。アルファベットのみで構成される英語はもちろん、中国語でも、日本語ほど自由に漢字を変えて使うことはできません。当て字は日本語を使う人々特有の楽しみと言えます」

「色々な効果を狙って、当て字を考える人たちは、これからもどんどん出てくると思います。生み出された言葉の多くは、いずれ消えていく。中には、ヒットしたり、静かなブームを起こしたりするものもあるでしょう。それだけは確かです」

 ちなみに飯間さんが編集に関わった『三省堂国語辞典 第八版』(2022年)には、同書の歴史の中で初めて、「人財」にまつわる情報が掲載されました。「人材」の項目における表記説明として、こんな記述が見えます。

「財産である人」の意味で「人財」とも。「人財募集」
――『三省堂国語辞典 第八版』

 社会が変化するにつれて、生まれては消えゆく造語の数々。時代の荒波にもまれながらも、命脈を保つ言葉には、確かな説得力や強度があります。「人財」もまた、そうした語句の一つと言えるのかもしれません。

飯間浩明(いいま・ひろあき)
1967年、香川県高松市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業、同大学院文学研究科博士課程単位取得。2005年、『三省堂国語辞典』の編集委員に就任、以後編纂に関わる。辞書編纂のために、現代語の用例を採集し、説明を書く日々。著書に『辞書を編む』(光文社新書)、『ことばハンター』(ポプラ社)、『日本語をつかまえろ!』(毎日新聞出版)、『日本語はこわくない』(PHP研究所)などがある。