変化が激しく先行き不透明の時代には、私たち一人ひとりの働き方にもバージョンアップが求められる。必要なのは、答えのない時代に素早く成果を出す仕事のやり方。それがアジャイル仕事術である。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)は、経営共創基盤グループ会長 冨山和彦氏、『地頭力を鍛える』著者 細谷 功氏の2人がW推薦する注目の書。著者は、経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)でIGPIシンガポール取締役CEOを務める坂田幸樹氏。業界という壁がこわれ、ルーチン業務が減り、プロジェクト単位の仕事が圧倒的に増えていくこれからの時代。組織に依存するのではなく、私たち一人ひとりが自立(自律)した真のプロフェッショナルになることが求められる。本連載の特別編として書下ろしの記事をお届けする。
情報共有の欠如が引き起こす問題
皆さんの会社には、持っている情報量でマウンティングをしてくる上司はいませんか? このような上司がいると、立場上その情報にアクセスできない部下は反論できず、次第に思考停止に陥ります。
また、自分の隣に座っているチームメンバーがどのような仕事をしているか、皆さんは知っていますか? いくら決起集会や飲み会をしたところで、チームメンバーのことをよく知らなければチームワークなど期待できません。
筆者は経営コンサルタントとして、これまでに多くの企業を支援してきました。その中で、有望な若手社員が次々と辞めていく組織には共通点があることに気づきました。それは「情報共有の欠如」です。
情報が共有されていないと、メンバーのモチベーションが低下するだけでなく、チームの協力関係を築くこともできません。
業務遂行能力や組織の一体感への影響
チーム内で情報が適切に共有されないと、メンバーの業務に対する理解が浅くなり、業務遂行能力が低下します。例えば、重要なプロジェクトの進捗情報が共有されないと、メンバーが自分のタスクの優先順位を把握できない状況が頻繁に発生します。これにより、無駄な作業や重複作業が増え、効率が著しく低下します。
さらに、情報不足により、メンバーは自らの成長やキャリアパスを描けず、将来に対する不安が増大します。自分の仕事の意義を見失った先に、離職という選択があっても不思議ではありません。
また、情報共有の欠如が引き起こす問題は、モチベーション低下や思考停止にとどまらず、企業全体の生産性や創造性にも悪影響を与えます。制限された情報の中で全体像を把握することが困難なメンバーは、チームや会社の方向性や目標を理解する術がなく、結果として組織全体の一体感が失われます。特にデジタル時代においては、情報の迅速な共有が競争力のカギとなるため、このような情報の停滞は致命的ともいえます。
アジャイル仕事術による解決策:情報のシャワー効果
こうした状況を回避するには、情報共有の仕組みを構築することが重要です。
アジャイル仕事術では、情報をシャワーのように流し続けることが推奨されます。情報の量はやがて質に転化します。つまり、より多くの情報をメンバーに提供することで、メンバー自身が必要な情報を選び取り、活用する能力が養われます。
具体的な方法としては、社内SNSや定例会議を活用して情報をオープンに共有することが挙げられます。これにより、社員は自ら考え、行動するようになり、組織全体の創造性と生産性が向上します。
また、チームメンバー全員が情報にアクセスできるようにすることで、透明性が高まり、信頼関係が強化されます。
情報共有は単なる技術的な問題ではなく、組織文化の一部として根付かせることが重要です 。社員が自らの役割を理解し、組織全体の目標に向かって主体的に動くようになれば、有望な若手社員の離職を防ぎ、組織の持続的な成長を実現することができるでしょう。
株式会社経営共創基盤(IGPI)共同経営者(パートナー)、IGPIシンガポール取締役CEO
早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト&ヤングに入社。その後、日本コカ・コーラ、リヴァンプなどを経て、経営共創基盤(IGPI)に入社。現在はシンガポールを拠点として日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。細谷功氏との共著書に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(ダイヤモンド社)がある。『超速で成果を出す アジャイル仕事術』(ダイヤモンド社)が初の単著。