われわれ取材班が、山梨県内の、ある「無届け老人ホーム」の存在を知ったのは、昨年11月、一通の内部告発文書がきっかけだった。

 その施設は、山梨県内の、周りには民家も見あたらない山の中にあった。われわれは、施設の理事長に取材を申し込んだ。1時間の交渉の末、理事長が立ち会う事を条件に、施設の一部の撮影が許された。

1部屋に7人のタコツボ状態
生活保護費まで施設が管理?

 案内された15畳ほどの部屋には7つのベッドが置かれていた。本来「有料老人ホーム」は、都道府県の指針により、「個室」が求められているが、明らかにここはその指針に反していた。さらに、目隠しのないままポータブルトイレが置かれ、目の不自由な入居者にそこで用を足させていたのだ。

 施設の入居者31人のうち、28人は東京都内から来た生活保護受給者。都内には低料金で入れる施設がないため、多くはここに留まらざるを得ないという。

 次に案内された部屋に入ると、突然、入居者の一人が施設への不満を訴え始めた。

 「福祉事務所から出ている生活保護費を、施設が全部管理しているんだ! 俺の手元には全く残らない!」

 これが事実であれば、委任状もなく第三者が金銭を管理するのは明らかに違法行為である。しかし、理事長は開き直った。

 「うちは、無理にいてくれとは頼んでいない」

 われわれは、理事長に質問した。

 「なぜ、有料老人ホームに義務づけられている、県への届け出を行なっていないのか?」

 すると、理事長からは意外な返事が返ってきた。

 「この施設は、有料老人ホームではない」

 有料老人ホームの定義は、「高齢者を入居させ、食事や介護などを提供する施設」。しかし理事長は、部屋を貸しているだけの賃貸契約にすぎず、掃除や食事などのサービスは別の事業者が入居者とそれぞれ契約していると主張した。

 「そう言われても、そちらとしては解せない部分もありますよね? だったら、県に聞いてください。1年以上前から、この形で認めてもらっていますから」

 そこでわれわれは、山梨県長寿社会課に向かった。

 県の説明は、理事長の言った通りだった。山梨県は2年前、施設に対して、有料老人ホームの届け出をするよう指導していた。ところがその半年後、理事長は一転。入所者と交わした契約書を持ち出し、「有料老人ホームではなくなった」と主張した、という。

 われわれはそこに施設側の“脱法的な意図”を感じたが、県の担当者はこう回答した。

 「現在の法律の考え方を踏まえれば、有料老人ホームではないと認めざるを得ないのが現状です」

低所得の高齢者を狙う
「貧困ビジネス」の実体

 悪質な「無届け老人ホーム」は、生活保護受給者など低所得者を集めているのが特徴だ。ではなぜ、“低所得者”を狙うのか――。

 その答えを探るべく、去年1月に経営者が行政処分を受けて閉鎖に追い込まれた千葉県内のある無届け老人ホームを取材した。生活保護の高齢者を集め、年間9000万円近い収入を得ていたこの施設は、どのようにして利益をあげていたのか。