「銀河英雄伝説」ツイートなぜ大炎上した?ネットで「被害者」になりたがる人の心理Illustration:PIXTA

ネットである発言が炎上。すると、炎上発言の発信者は「被害者意識」を抱く第三者から吊るし上げられ袋叩きに遭い、「加害者」側に立たされていながら「被害者」のようにも見受けられるという、奇妙な構図が生まれる。メディアコミュニケーションの専門家が、延々と続くネットバトルの構造を、試合中継の解説者のようにわかりやすく説いた。本稿は、津田正太郎『ネットはなぜいつも揉めているのか』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

ネットバトルが生む
「被害者意識」の正体

 ネット炎上について、実は「燃やす側」の数は少ないということが知られるようになってきました。経済学者の田中辰雄と山口真一の推計によれば、炎上が発生したさいに何らかの書き込みをするのはネットユーザーのおよそ0.5%、しかもその9割以上は感想を少し述べる程度だというのです。したがって、複数回にわたって書き込みを行うのは数千人、炎上元に直接にアプローチするのは数人から数十人の規模だと推計されています。これは私自身の肌感覚にも合致するところで、誰かが炎上しているのをみにいくと、燃やしているのはいつもの面子……ということが頻繁に起こります。

 とはいえ、その数人または数十人の背後には、はるかに多くの賛同者がいる可能性もまた否定できません。私の事例(編集部注/2020年9月11日、筆者は『銀河英雄伝説』におけるジェンダーの描き方についてツイートし、炎上した)でいえば、炎上が広がるきっかけとなった漫画家のツイートには当時、2.9万の「いいね」がつきました。(私個人が認識されているのかは別として)万単位の人びとの反感を集めているという感覚は、普段の生活ではなかなか得られるものではありません。無数の人びとから白い目でみられ、批判される状況に置かれていると、あたかも自分が何らかの「被害者」であるような気もしてきます。

 ただし、私を批判している側からすれば、彼/彼女らが被害者なのであり、私こそが加害者ということになるわけです。現在のソーシャルメディアでは、対立している双方がそれぞれ自分たちを被害者、相手側を加害者とする語りがさかんに行われています。

 アニメ表現をめぐる論争の場合、表現を批判する人の多くは、女性を性的に消費してきた社会の被害者として自身を位置づける立場にたっています。つまり、自分が求めていない相手から、または不適切な状況において性的なまなざしを向けられ、そのことが痴漢のような犯罪につながる一方、仕事で接している相手からのセクハラを生じさせてしまう。それとは逆に、性的な魅力に欠けているとみなされた女性は、その能力が不当に低く評価されてしまうということも起きる。身体の性的な部分を強調するアニメ表現は、そうした文化を体現する加害的表現ということになるわけです。