犬の糞の放置も問題でした。道路の舗装が進んでいなかったために「自然に還している」という感覚をもつ人が多かったことや、今日とは衛生観念が異なっていたことから、犬の糞はそのままにされることが多かったのです。

 私が小学生だった1980年代前半においてすら、今よりもマナー水準はかなり低かったと言わざるをえません。当時はよく街中に犬の糞が落ちており、ときどき踏んづけてしまっていたのを思い出します。しかし、今は野良犬の数が減少したことに加えて、愛犬家のマナーも大幅に向上し、そういった光景を目にすることは珍しくなりました。

マナーがよくなった日本人も
SNSでは他人の行動に不寛容

 人びとのこのようなふるまいの変化は、より明確な犯罪行為との関連でも論じることができます。警察の取り締まり方針や通報のされやすさの変化などから犯罪の認知件数は大きく影響を受けるため、犯罪統計の解釈には注意が必要です。しかし、それらの影響を受けにくい重大犯罪の被害状況から判断する限り、過去との比較において日本の治安は大幅に改善されてきたと言うことができます。とりわけ若年層による犯罪の減少は、子どもの数自体が減っているということを考慮に入れても、目覚ましいものがあります。

 もちろん、これはあくまで統計的にみられる傾向で、個別には凶悪な犯罪が発生する可能性はありますし、泣き寝入りされやすい性犯罪は依然として深刻な水準にあるとも考えられます。それでも、全体としてみれば、日本社会は以前よりもずっと品行方正になってきたのです。

 にもかかわらず、ソーシャルメディア上では他人の行動を批判する声が絶えません。その理由として考えられるのは、人びとの心が狭くなった、言い換えれば不寛容になったという可能性です。けれども、過去との比較で言うなら、人びとはある意味でずいぶん寛容になったと言えるのです。