新人研修中は模擬紙幣を手に
寸暇を惜しんで札勘定の練習
入行式後、すぐに新人研修が開始される。1クール250人、都内近郊の自社研修施設での11日間にわたる合宿となり、4人の相部屋で文字通り寝食を共に過ごした。夜は膨大な量の課題が出され、同部屋のメンバーと熱い議論を交わす。「10年後の都市銀行の勢力図を予測し、根拠と共にプレゼンをしろ」という課題には、皆が熱くなった。
我々のグループは「都市銀行11行が合併し、日本の都銀は1行に収れんするだろう」という大胆な予測をした。さらにはアジア最大の銀行となり、銀行・信託銀行・不動産会社・証券会社を兼業でき、世界の金融機関ビッグ3に名を連ねるという、バブル期に大学時代を過ごした若者のおめでたいプレゼンだった。
だが現実は、その後バブルが崩壊し、直ちに不良債権問題に喘いだ。都銀各行は単独では生き残れないため、合併を繰り返し、メガバンク3行にまとまったことはご存じの通り。世界トップを獲りにいくという予測とは、あまりにかけ離れた結果となった。
そんな将来を知る由もなく、我々は相部屋で、深夜まで熱い議論を続けた。滑稽だったのは、みなが手に手に模擬紙幣を持っていたことだ。模擬紙幣とは、札勘定の練習のために使われる紙束のこと。まさか本物の紙幣を用意してもらえるはずもない。模擬紙幣は研修初日に配られた。研修期間中のどこかでテストがあるため、寸暇を惜しんで練習を重ねていたのだ。
初日のことだ。研修インストラクターから、簡単な説明があった。
「10分以内に5束作れ。いずれも札帯を巻き1束100枚、紙幣の肖像画の向きも揃えるように」
合計500枚の紙束と数枚の帯封用紙が、道具箱のようなケースに入っている。
「はじめ!」の合図でストップウォッチがスタートし「やめ!」の合図があるまでに、5束の札束を作る。500枚の紙幣の中には、意地悪なことに折れ曲がったもの、裏返しのものが数枚仕込まれており、それらを正しく直して札束を作らなければならない。
お札の数え方は「縦勘定」と「横勘定」の2通りだ。