「縦勘定」は札束を縦にして、右利きの人は左手の中指と薬指の間に札束を挟む。札束の下から指を縦に入れるところがポイントだ。次に、右手親指で1枚ずつ前に繰り出し、紙幣の向きや折れ曲がり具合を確認しながら枚数を数える。最後の1枚を、パチンと音をたてるのが習わしになっている。

「横勘定」は左手に紙幣を持ち、パーッと扇子のように横に開き、5枚ずつ右手で数える方法で、上手な人の手さばきは見事で美しい。なんとも銀行員らしい所作である。ただ、こちらは開くだけなので、金種の区別や向きは確認できず、あくまで枚数を数える方法になっている。

難しすぎる「横勘定」に
苦戦する新入行員たち

 テストではこの「縦勘定」と「横勘定」を両方行い、帯封で留めなければならない。10分で5束というのは、時間があるようでないものだ。インストラクターの指導は全く具体的ではなかった。

「いいか、よく見てろ。ほら」

「横勘定」で、札束を自慢げに開いてみせる。しかし、どうやるのか具体的なレクチャーはない。「何回も何回もやると、そのうち開く」というのが彼の説明だった。

 念ずれば開く…。もはや超能力か?

 私の相部屋にいるほぼ全員が「横勘定」できずに苦しんでいた。11日間、夜通しの共同作業で課題を仕上げながら、同時に模擬紙幣を握りしめて練習する姿は、異様に感じた。数日後、早いか遅いかは別として「縦勘定」はなんとかなった。形だけは再現できるようになった。いかに「縦勘定」を早く済ませて「横勘定」のための時間を捻出するか。これが10分で5束作るためのポイントだった。

「なんか俺、わかってきたぜ」

 東工大の物理学専攻で、なぜ都市銀行を志望したのかよくわからない亀田君が切り出した。